「医療費年間4兆円削減」などありえない-来る国政選挙で審判をくだそう
高額療養費制度負担増凍結を組み込み再度修正した2025年度予算案の審議が佳境に入り、自公の了承を経て年度内成立と報道されている。これまでと違って、野党を無視することができない政権は、予算案審議の過程で、一部の野党と協議を行い、日本維新の会との3党合意により予算案の修正を図った。
2月25日に署名された「自民党、公明党、日本維新の会合意」文書は、〇教育無償化、〇現役世代の保険料負担を含む国民負担の軽減、〇働き控えの解消、を柱とする。教育無償化では、高校授業料支援における所得制限を撤廃、公私立高校で無償化する方向への転換とされている。大学への運営費交付金等の抑制が進み、国立大学が授業料値上げに踏み切るなかで、私立も含めた高校無償化は適切と言えるのか。教育関係者のなかからは、公立・私立の関係を変質させかねない(公立が淘汰される事態を招く)施策と危惧する声もある。
そして「現役世代の保険料負担を含む国民負担の軽減」は、日本維新の会の改革案にある国民医療費年間最低4兆円削減と、現役世代一人当たりの社会保険料負担の年間6万円引き下げを念頭に、3党の協議体を設置して政策決定に向けた協議を行うとされている。政府与党が5年間で1兆円規模の負担軽減を目指すなか、年間4兆円の医療費削減とは尋常でない。国会で合意内容を詰められた石破首相は「4兆円削減するとはしていない」と打ち消しているが、介護事業者倒産や医科・歯科診療所の休廃業は過去最高の数字となっており、来年の診療報酬改定への警戒を強くせざるをえない。
「聖域なき構造改革」をスローガンに掲げ非正規雇用を拡大、格差社会の発端となった小泉純一郎政権では、2002年度以降、社会保障費自然増分から2200億円(初年度は3千億円)が削減された。安倍・菅政権の9年間(2013~21年)では5兆9640億円超を削減。診療報酬や介護報酬のマイナス改定だけでなく、生活保護費の減額、保険料や窓口負担の増額など、超高齢社会へ進むなか、弱者に負担を強いる形での公費削減が続けられてきたのである。
一部野党が示した「医療費4兆円削減」は根拠に乏しく、他党を超えるインパクトを得るためのものでしかない。それを予算成立の数合わせに受け入れたのであり、与党にも一部の野党にも、国民や医療・介護現場の窮状を救う視点はない。削減ありきの合意が前提の協議は必要ない。来る国政選挙で審判をくだそう。