医師・歯科医師の就労環境改善を求める~医師数抑制策の転換と診療報酬の引き上げ(患者負担の軽減)の世論形成を

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 医師の長時間労働を是正することを主目的とした「働き方改革」が、4月からスタートした。複数主治医体制やタスク・シェア、タスク・シフトを導入するとともに、勤務する医師・歯科医師の時間外労働に新たな規制が設けられることとなった。一般業種で720時間(年間)とされている上限が、医療現場の特殊性を考慮するとして960時間(原則)、三次救急医療機関や大規模二次救急医療機関や医師の育成等を行う研修機関としての役割を担う医療機関では年間上限1860時間とされている。年間時間外労働の上限が1860時間とされる医療機関では、連続勤務時間制限28時間、勤務のインターバル9時間、代償休息を設けることとされている。

 厚労省の病院常勤勤務医の週労働時間調査(2019年)では、26.3%の勤務医が週50~60時間の過労働となっており、全体の約4割近くが60時間超。50~70時間の過労働は2016年の前回調査よりも増加している。夜勤や宿直、交代制、複数医療機関での勤務など、多様で複雑な働き方を抱えるとはいえ、平均労働時間が、過労死の認定基準の時間外労働(月80時間)を超えている。ドイツ、フランス、イギリスなどでは、25~54歳の男性医師の労働時間は週55時間以下、女性医師は50時間を下回る。アメリカの男性医師は週51.7時間、女性医師は44.4時間と、日本の医師らの置かれる労働環境はあまりに過酷である。

 これらの改善に「働き方改革」が果たす役割は大きいものであったはずだが、宿直・日直の待機を勤務時間に含めない「宿日直許可」制、診療に関わる「研鑽」も「自己研鑽」とみなされ労働時間に含まれないなど、上限規制には抜け道ができた。一方、中核病院では、医師派遣の中止や削減で、医師確保がさらに困難な状況に陥っている。改革への懸念事項が現実のものとなった理由は、医師の増員や地域・診療科偏在を脇に置いた改革でしかなかったからではないか。

 国(厚労省)が固執する医療費抑制策のもとで、抑制的な低診療報酬が続き、医師数抑制政策がとられている。超高齢社会にあって高度化する医療を担う医師は、OECD平均で約10万人不足(2016年)していると言われており、人口1000人あたりの医師数は35か国中の32位(2019年)である。医師の養成数を適切に増やし、コスト捻出につながる診療報酬引き上げがなくては、改革は絵に描いた餅になる。

 4月実施の「働き方改革」には、労働時間の上限規制の対象外となる開業医師・開業歯科医師は含まれない。しかし地域住民の命や健康を守る開業医が、低診療報酬のもとで、地域医療を維持・継続するために過労働にあってもよいものだろうか。2024年5月の月勤労統計調査で、一般労働者の総実労働時間は161.4時間となっているが、保団連が2008年に行った開業医調査での平均値は252.0時間であった。現代社会では、新興感染症への対応、超高齢社会の在宅医療、就学や就労で適応困難を抱える患者の増加など、多様できめ細かい医療提供が開業現場に求められるうえに、多くの医師・歯科医師は、診療以外にレセプト業務、人事、経理・経営に携わるなかで自己研鑽に努めている。改定の度に、加算要件を満たすためとしか思えない記載事項が増え、患者に向き合う時間が削られているのが実態である。

 しかし、ますます活躍がひろがる女性医師・女性歯科医師のためにも、就労環境の改善を急ぐ必要がある。医療現場の実態を国民と共有し、医師数抑制策の転換と診療報酬の引き上げ(患者負担の軽減)の世論形成を図り、実態の改善につながる「働き方改革」を実現しよう。