国と地方公共団体の「対等協力」を「上下従属」へ~地方自治の発展を阻害する地方自治法「改正」は採決見送りを
5月7日、地方自治法の一部を改正する法律案が衆議院で審議入りした。「大規模な災害、感染症のまん延その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と地方公共団体との関係を明確化するため」「国と地方公共団体との関係等の特例の創設」を講ずるとして、国が自治体に対して国民の生命等の保護を実施するため必要な措置を指示できることなどを盛り込んだ。
地方自治法では、自治体の事務処理に関して法律またはこれに基づく政令によらなければ、国または都道府県の関与を受けることはないと規定されている。例えば、新型インフルエンザ等対策特別特措法、災害対策基本法は、法律が定める事態に、国民の生命、身体または財産の保護のための措置を的確かつ迅速に実施することが特に必要であると認められるときに、国は必要な指示ができると規定する。第33次地方制度調査会が答申した「ポストコロナの経済社会に対応する地方制度のあり方に関する答申」は、大規模な災害や新型コロナで十分な対応が取れなかったことを事例に挙げ、個別法の規定に想定されていない事態に、国民の生命等の保護のために必要な措置を実施するために、地方自治法の規定を直接の根拠として、必要な指示を行うことができるようにすべきと述べている。しかし、新型コロナ患者の大幅な増加に伴い病床の効率的な利用が困難となったことは、これまでの病床削減策や臨時医療施設の整備の遅れに起因するものであり、保健所の職員が不足し業務のひっ迫により検査、入院調整などが遅れた事態は、1992年の852か所から2020年469か所へと保健所を半減するなど、施設や職員を大幅に減らしたことが要因である。決して、国の指示が強力に及ばなかったから生じたものではない。感染症対策を振り返るに、国に先駆けて住民の感染防御策を講じた地域も多々あり、そういった取り組みに枷をはめるような法改正ではなく、権限や財源を配分することこそが必要なのではないか。
「改正」法案は、大規模な災害や感染症のまん延に類する、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生するおそれがある、大臣が「必要があると認め」れば閣議決定で強力な指示を出すことができるとしている。前提条件が曖昧で、基地建設・強化や原発再稼働、有事の際の動員などにも適用されかねない指示が、国会に諮ることもなく出されることになりはしないか。
日本国憲法のいう「地方自治の本旨」は、住民自治と団体自治からなり、住民自治とは、地方自治が住民の意思に基づいて行われるという民主主義的要素であり、団体自治とは、地方自治が国から独立した団体に委ねられ、団体自らの意思と責任の下でなされるという自由主義的・地方分権的要素であると言われている。2000年に施行された地方分権一括法は、自治体を国の下部機関と位置付ける機関委任事務を廃止し、国の地方公共団体に対する包括的指揮監督権も廃止した。日本弁護士連合会は、国と地方公共団体の関係を「対等協力」から大きく変容させるもので、自治事務に対する国の不当な介入を誘発する恐れが高いと指摘し、全国市長会長や全国町村会長も、「極めて限定的かつ厳格な制度にすべき」「(非常事態対応は)個別法またはその改正等で行われるべき」との意見を表している。すでに危険水域とも言える国会軽視の政権運営が、地方自治法「改正」により国と自治体の関係を「上下従属」へと転換させ、歯止めのない強力な権限を許すことになりかねない。地方自治法「改正」は、慎重審議のうえ採決見送りとすべきである。