国民的理解のもとで、今こそ医療費の増額を~医療現場の実態と問題の本質を正確に伝える報道を求める
春闘を迎えた時期、国立病院の看護師などが全国でストライキを実施した。日本医療労働組合連合会(医労連)がけん引したストライキは、人手不足を補う賃上げや働き方の改善を求め、診療への影響に配慮しつつ行われた。広島県でも11施設が決議をあげている。
日本看護協会が2024年度に実施した看護職員の入退職に関する調査をみると、2023年度の正規雇用看護職員の離職率は11.3%(既卒者離職率16.1%)、99床以下の病院の既卒者離職率は21.8%。3割強の病院が、退職者数が増加したと回答している。また医労連の「看護職員の入退職に関する実態調査」(2024)では、約7割(84施設)の施設が、看護職員が「充足していない」と回答。「夜勤実態調査」(2024)では、8時間以上の長時間勤務となる「2交替」病棟の割合は、50.7%と過去最多、勤務間隔が「8時間未満」の施設も37.5%であった。
超高齢社会となり、入院や在宅医療、介護事業など、看護師をはじめとしたケア労働者の需要は高まっている。しかし過酷な労働環境で働く職員らの処遇改善は進まず離職者が後をたたない。看護師不足で病床稼働率が低下するケースも出てきている。人材確保のための賃金引き上げ要求は、開業医療機関でも切実である。しかし原資となる診療報酬は、1998年以降3回のプラス改定(0.004から0.19)以外はマイナス改定ばかりである。今次改定でベースアップ評価料が加わったが、複雑な届出に対して過少な点数、次回改定での保証はない。賃上げに積極的になれという方が無理ではないか。
政府は「デジタル化の推進によって効率化を図る」と繰り返すが、デジタルに置き換えられないものもある。公立病院のケア労働者や教員、保育士の不足も、課題が増加する現場に効率化を押し付け、民間への委託や移管を進め、予算を削って安上がりにすませようとしてきた結果である。
ケア労働者の労働問題(人員不足)は、地域住民の受ける医療に直結する。不採算部門を担い、セーフティネットでもある公立病院と、早期発見と治療に対応する開業医療機関。それぞれの役割と課題を住民と共有し、早急に解決を図らなくてはならない。話題性のあるテーマに飛びつくのではなく、医療現場の実態を正確に、複雑な問題の本質をわかりやすく解きほぐし住民に伝える報道、医療費拡大に向けて国民的理解を醸成する報道を求める。