国立大学学費負担軽減で教育の機会均等を保証せよ~国家予算を増やし大学運営費交付金の増額を
文部科学省の中央教育審議会「高等教育の在り方に関する特別部会」(2024年3月)で、私学トップの委員から国立大学学費値上げの提案が出され波紋を広げている。提案者は「設置形態に関わらず、公平な競争環境を整える」と、年額150万円への値上げを提案した。提案の背景には、急速な少子化の進行による大学経営の将来不安と、経団連の要求(国立大学の独立行政法人化とイコールフッティング)がある。国立大学協会理事会は、6月7日、大学が担う世界規模のミッションと運営費交付金削減という窮状への国民的理解と協働を求める声明を発出した。運営費交付金は、2004年の12,415億円から、2024年10,784億円と、13%のマイナスとなっている。また、法人化によって、社会保険料の事業主負担などの義務的経費負担を負い、消費税増税にも見舞われた。人件費が引上げ傾向にあるなか、優秀な人材確保は困難となり、教育・研究の質の低下が危惧されている。
文科省令が定める国立大学授業料標準額は、1978年に10万円超となって以降、検定料値上げと交互の2年毎に値上げされ、現在、年53万5800円となっている(標準額は2004年以降)。東京大学で来春値上げの意向が知れると、学生や教職員の間に反対の声がひろがった。2年以上前から値上げを検討していたとする広島大学でも、学生らの署名活動がはじまり1万3千超の署名が集約されている。
大学教育に「受益者負担」の考え方が持ち込まれて以降、家庭の負担は増加し、1980年代半ばには国費負担と逆転した。大学進学者の増加に伴い奨学金利用が拡大、1996年の2割から大幅に増加した。その後は雇用悪化や物価高騰が影響し、2020年49.6%となっている。7割が貸与型で、残りの3割が給付型の奨学金を利用し、貸与型は卒業後、長期に渡って返還を続ける。奨学金返還が困難となる事例も増加しており、2003年に222万人だった延滞者は2010年に341万人、その後は高止まりの状態にある。先進国であるはずのこの国で、半数に近い学生が借り入れを強いられ、社会人スタートとともにローン返済、延滞すればブラックリストという負荷が、大学教育の実態であることを放置してよいのか。
少子化の理由にもあがる教育費負担に、国はどう向き合ってきたのか。世界各国が少子化という課題を抱えるなか公財政教育支出を増やしている。韓国や英国では1999年から7年間で約1.5倍に増加、北欧諸国は完全無償化、スウェーデンやフィンランドでは私大も無償化されている。一方、わが国の公財政教育支出は30年近く横ばい、高等教育予算のGDP比はOECD各国の中で最低レベルである(Education at a Glance2023)。教育は人を育てるだけではなく、国の土台を支え、発展をも担う重要な役割を持つ。医療の発展がひろく国民に寄与することからも明らかである。翻って「受益者負担」に立ったとしても、教育や研究活動を国費で支えることに疑問を挟む余地はなく、高等教育無償を憲法で規定する国もある。
教育基本法第4条は、「すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければなら」ないとし、第3項で「国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修学が困難な者に対して、奨学の措置を講じなければならない」と定めている。教育の機会均等を保証するために、国立大学学費値上げを行わず、給付型奨学金制度を拡充することを求める。あわせて、国の教育予算を増額し、国公立大学運営費交付金を大幅に増額するよう強く求めるものである。