地域の暮らしを支える医療機関を守れ-医療行為の正当な評価と、経費増への緊急支援策を求める
帝国データバンクは、2024年の医療機関の「倒産」「休廃業・解散」が過去最多であったと発表した。医療機関を経営する事業者が法的整理(負債1000万以上)の対象となった「倒産」では、病院2件が「民事再生法」適用となっている。診療所の「倒産」は主に都市部に多く、10年前と比べ3倍以上の数とはいえ、平均負債額5億3800万円(歯科医院2億3400万円)と聞くと、限られた事業所の話に聞こえなくもない。一方、「休廃業・解散」は722件、2023年の620件を上回り、この10年間で2倍以上に増加している。同じ時期には独立行政法人福祉医療機構が、2023年度に一般病院の半数が赤字。医業の利益率も、統計公表(2007年)以降で過去最低であったことを公表した。全日本病院協会など病院団体らが、多くの病院が深刻な経営危機に陥るなど「経営破綻寸前」にあると声明を出し、緊急的な財政支援を要望している。
帝国データバンクは全国の診療所経営者の年齢分布から、高齢化・後継者不在を「休廃業・解散」の要因とし、歯科医院に比べて深刻な状況にあると指摘している。しかし、人口減少傾向が強まるなかにあって医師数は微増(充足しているというわけではない)、「高齢化」で片付けるのは言葉足らずではないか。広島県保険医協会をはじめ、全国の保険医協会でも、閉院が増加傾向にあることを把握している。しかし、多くの開業医会員を擁する保険医協会が、以前との違いとして実感するのは「閉院の早期化」である。80歳超であっても体力が続く限り地域医療に従事する医師・歯科医師が減少し、施設勤務への転向や閉院を選択する傾向が強まっている。当会において言えば、それは新型コロナの時期ではなく、オンライン資格確認義務化以降の傾向と捉えている。
補助金があったとはいえ、オンライン環境ではセキュリティや保守に継続的な費用負担が生じる。導入作業やトラブルやクレームに対応する人的・時間的コストと効果を天秤にかけても負担が重いという声は多い。その後も診療報酬制度は政策誘導に利用され、施設や環境整備の評価が増加、挙句は労働行政の範疇までもベースアップ評価料として診療報酬に持ち込まれた。医療行為の評価である基本診療料は正当な評価に程遠く、患者は増えても収益減少が著しいという診療科もある。近年のアンケートに寄せられた「地域医療を支えるモチベーションが下がる」という意見こそが、診療継続を断念する主要因ではないか。
診療報酬のマイナス改定が続くなか、物価や人件費は高騰、強引な医療DX推進による経費増も重なる。医療機関の経営は厳しさを増すばかりである。さらに病床削減(医療費削減)を目指す地域医療構想では病院の統廃合が進められ、中山間地や過疎地域の医療継続に深刻な影響を及ぼしている。医療機関が減少すれば(なくなれば)、その地域に住み続けることができなくなる。しかし、医師の偏在解消にと財政審が持ち出した案は、診療報酬上のディスインセンティブ措置(医療サービス過剰と判断した場合に報酬を減算する)である。医療の実態を無視するものと言わざるを得ない。
「多くの医師・歯科医師はお金のためだけに仕事をしているわけではない。労働時間やその他の業務、責任などを考えれば、決して高い報酬ではないと思う。『患者さんを1人でも助けたい』という強い思いがあるからこそ、過酷な仕事を続けることができている。しかしこのような状況が続くと、さすがに心が折れそうになる」。この会員から寄せられた声を、多くの患者・国民、厚生労働省に知らせ、診療報酬引き上げと医療制度の改善につなげたい。