政権中枢への権力集中から、国会の審議権を尊重する政治へ~来夏の参議院選挙を見据えて関心を高めよう

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 裏金問題への説明責任は果たされず、復興ままならぬ被災地支援は補正予算ではなく予備費対応とされ、物価高騰対策などの課題も棚上げしたまま、石破新総裁は就任3日後に衆議院の解散・選挙を宣言した。裏金問題の追及を終わらせたい党利党略選挙との批判もあるなか、10月27日に行われた衆議院選挙は、自民党・公明党の与党が大幅に議席を減らす結果に終わった。与党からこぼれ落ちた票は野党に流れ、立憲民主50議席、国民民主21議席、れいわが6議席を増やした。
 複数野党に議席が分散したことで政権交代には至らなかったものの、与党の過半数割れが政局に及ぼす影響は小さくない。与党が独占していた15の常任委員会の委員長(自民13、公明2)は、法務・予算等5つの委員長が立憲民主から、安全保障を日本維新、決算行政監視委員会を国民民主から選任され、3審査会のうち憲法審査会会長は立憲民主からの選出となった。安倍政権以降、乱発された閣議決定は、内閣の意思を強力に示すと同時に、数の力と報道の後押しにより絶大な権限を持つ存在に変質した。国会閉会後の閣議決定、「答弁を差し控える」閣僚や官僚。マイナ保険証関連の国会質疑でも、内閣の一員である前デジタル担当相が「所管外」との答弁を繰り返した。両院を占めた与党によって国会審議が蔑ろにされる様を見てきた野党が、重要ポストを担うことで、国会運営の正常化がなされることを切に願う。
 今回の選挙で石破首相は、収支報告書不記載があった候補者の非公認と、比例代表への重複立候補を認めなかった。しかし自民党支部からは、非公認とした候補に、2000万円の資金が提供されていた。議席数で配分される政党交付金160億円を受ける自民党は、死票が多く大政党に有利にはたらく選挙制度(小選挙区制)を見直すこともせず、潤沢な資金で選挙を有利に運ぶ。真偽不明の情報が飛び交うSNSや動画での扇動、公選法の隙間を縫うような言動もみられる。国民の「知る権利」が損われ、民主主義の根幹である選挙が歪められている現状は、プロパガンダに煽られ戦争に突き進んだ過去を想起させる。
 2000年代後半、メディアは衆議院と参議院で多数派を異にする状態を「ねじれ国会」と揶揄し、「決められない政治」と批判した。2005年の郵政解散以降2017年まで、衆議院では第1党が議席の6割を占めてきた。「絶対安定多数」に奢った政治は、重要法案の強行採決、「束ね法案」が頻発し、審議会等審議の形骸化が進んだ。健康保険証廃止も関係会議の記録すらないなか決定されている。政権中枢への権力集中は国会軽視を招き、国民の声に耳を傾けない政治が拡大していった。
 物価高騰と低賃金が続く国民生活は、エンゲル係数30.4%(2024年8月・総務省家計調査)と、2000年以降最も高い水準となった。選挙後、税額控除の緩和策が耳目を集めるが、さらなる労働と控除拡大が負担軽減につながるのか。一方、医療・介護現場だけでなく自治体事務でも活用されないマイナ政策には、約3兆円(予算ベース)がつぎ込まれている。衆院選候補者アンケート(NHK)をみると、当選議員の55.1%が、健康保険証の「廃止時期を延期すべき」「廃止すべきでない」と答えている。選挙結果を受けて立憲民主党は、11月12日、「保険証廃止延期法案」(保険証併用法案)を再提出した。誰もが安心して受診できる健康保険証存続と、マイナ政策の費用対効果について、今一度、国会で真摯に議論すべきである。
 今回の衆院選を変化の入口とするため、要求活動を旺盛に展開し、来夏の参議院選挙につなげていこう。