歯科医療費総枠拡大で、診療報酬引き上げと適正な評価を-「より良く食べるは、より良く生きる」の実現に向けて-

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 糖尿病や動脈硬化症、認知症等の全身疾患と歯科との関わりへの理解がひろがり、専門的な口腔ケアを行うことで、口腔内の感染制御やQOL(quality of life-生活の質)を向上させることが盛んに言われるようになった。高齢になるほどリスクが高まる「フレイル」(身体、精神、社会性の活動低下による虚弱)の予防は、その入口となる「オーラルフレイル」(摂食・嚥下機能の低下等)を予防することが重要である。在宅や施設での高齢者の口腔管理を担う歯科への期待値は向上し、健康寿命の観点からも予防歯科が重視されるようになってきている。しかし歯科医療費をみると、こうした状況に対応しているとは言えない状況にある。1991年から2020年の30年で、国民医療費は21.8兆円から42.9兆円に倍増しているが、そのうちの歯科医療費の比率は、9.7%から6.9%に低下し、実増は2.1兆円から3.0兆円の9000億円に抑えられている。
 歯科では、金属床部分義歯、ジルコニアなど、安全性・有効性が確保され十分に普及しているにもかかわらず、保険収載されていない技術・材料が多くある。矯正歯科の分野でみても、2024年診療報酬改定では、学校歯科健診等で咬合異常や顎変形症の疑いがあると判断された患者に対して、歯科矯正治療の保険適用の可否を判断するために検査を行い、診断結果を提供した場合に算定できる「歯科矯正相談料」が新設された。しかし歯科矯正治療の保険適用範囲は狭く、学校歯科健診で不正咬合を指摘されてもすべてが保険適用となるわけではない。
 歯科で行う禁煙指導は、歯周病の予防や治療に役立つだけでなく、口腔がんなどのリスクを抑制する効果がある。口腔清掃指導を患者の行動変容につなげるなど、医科歯科連携の広がりが健康増進に寄与することへの期待は高まるが、禁煙指導で重要な役割を担う歯科衛生士の確保が困難になっている。全国歯科衛生士教育協議会の調べによると、2022年度の求人倍率は23.3倍、中四国で21.8倍。離職率が高く、歯科衛生士名簿登録者数約28万人(2019年)に対し、2020年衛生行政報告例の就業歯科衛生士数は約14万人と、有資格者の半数が就業していない。また歯科技工でも、技工所の多くが長時間・低収入といった過酷な労働環境のもとに置かれ、離職や志望者減が加速し、養成校の存続が危ぶまれる状況ともなっている。いずれの職種でも背景に所得と労働環境があることは明らかであり、関連点数の引き上げ、技術や役割が適切に評価される診療報酬体系への再改定を急がなくてはならない。
 決められた医療費総枠のなかでは付け替えの診療報酬改定にならざるをえず、矛盾が生じた部分を歯科医療機関が背負うにも限界がある。歯科医療からQOL向上に取り組むにあたっては、評価の適正化に伴って4兆円規模への医療費の総枠拡大が必須と考える。
 光熱費や物価の高騰は、医業経営に深刻な影響を及ぼすだけでなく、国民生活を圧迫し、経済的理由による受診抑制が進むことを危惧する声もきかれる。成長期の学童に深刻な口腔崩壊がみられるなど、受診格差とも言える実態も把握されている。保団連・保険医協会では、①窓口負担割合の引き下げ、②保険適用範囲の拡大、③歯科予算の拡充、を求める請願署名の取り組みをスタートし、広島では「『保険でよい歯を』広島プロジェクト」を構成し、歯科医療や予防歯科への関心を高めていくこととしている。診療報酬の引き上げ、歯科医療費総枠拡大、患者負担の軽減によって、「より良く食べるは、より良く生きる」を実現しよう。