深刻な医師不足と偏在対策―「規律と倫理観のある自由」に基づく医局制度の復活を
日本の医療は医師の犠牲の上に成り立っているのが現状です。特に2004年に新医師臨床研修制度が開始され、従来の大学医局制度の規制が緩和されて、認定を受けた全国の臨床研修指定病院で医師が研修を自由にできるようにしたため、大学医局で医師不足が生じることとなりました。大学では、地方や中山間地域の病院から医師を引きあげざるを得なくなり、全国で多くの医療崩壊が発生しました。さらに、政府の新自由主義政策である地方創生・地方広域統治政策のために人口戦略会議が公表した「自治体消滅」論を根拠に、2040年の将来人口が減るから病院を統廃合する施策、すなわち「公立病院改革ガイドライン」や「地域医療構想」によって全国の公立、公的病院の統廃合が推進され、周辺地域切り捨て、すなわち医師の地域偏在が発生しました。
新医師臨床研修制度が始まってから20年が経過しています。東京大学の飯塚敏晃教授らの検証によると、中山間地域をはじめ、医師が少なく入れ替わりの激しい地域ほど、医師数も病院数も減少していることが判明し、命の格差も生じていました。このことからも規制を外した「規律と倫理観のない自由」は、破壊的な自由で弱肉強食の不平等な社会にしていくことが分かります。これらは、先人たちが地域・故郷を持続可能にするために汗と涙で勝ち取った公立病院などの「社会的共通資本」が地域から無くなっていくことを意味します。そうなると、その地域は確実に衰退し、やがては周辺の、より大きな自治体に吸収されて、結果的に隠れた合併になります。上下町は2004年の府中市との編入合併によって、地元の商店がなくなり金融機関も撤退、民間のクリニックは1つだけになっています。人口は36.5%も減少しました。
1980年頃から新自由主義政治により、効率化を優先し利益を追求する経済第一の強欲資本主義が世界に浸透していきました。金儲けのために人類が過去に犯した多くの過ち、反省の上につくられた「規律と倫理観のある自由」のための規制を、新自由主義的政策によって緩和し、民営化を推し進めたため、世界中で深刻な貧困格差、分断対立、戦争が拡大しています。また、乱開発によって自然豊かな地球環境も破壊されて、未曾有の地球温暖化が進行して世界中で異常気象による大災害が頻発しています。
さらに現在、世界中に新自由主義革命が浸透して「規律と倫理観のない自由」に基づいた強欲グローバル資本主義が横行しています。そのため「規律と倫理観のある自由」が蔑ろにされ、規制を緩和して主権者たる国民の宝である「社会的共通資本」が、金儲けの道具にされ、莫大な富をほんの一握りの超富裕層(大企業や官僚、政治家)が独占しています。そして日本でも、病院や学校の統廃合などで公的サービスが後退、そのことは統治機構や広域行政体制の改革推進に利用され、「改正」地方分権一括法と経済安全保障政策等による専制政治、中央集権化、戦争のできる国づくりが拡大しています。すなわち、この目的のために、①東京一極集中と人口偏在による少子化の進行、②行政、インフラの偏在による災害復旧の遅れ、③医師の偏在による医療崩壊などが発生して国難化しています。それに対する私たち国民が取るべき戦略は、幼少期からの自由に関する教育と、社会的共通資本を守る草の根の住民運動で、学習して政治意識を高めて、自由、平等、平和な真の民主主義を実現し新自由主義から脱却することです。そして、地域間格差を増幅し地域的な偏在を生む政策を是正し、「規律と倫理観のある自由」に基づく社会を取り戻し、医局制度を復活させて医師不足と医師の偏在を解消することを急がなければなりません。