高額療養費制度自己負担上限引き上げは「修正」ではなく「撤回」を
月に医療費の自己負担額が高額になった場合、自己負担限度額を超えた分について、払い戻しを受けられる高額療養費の「限度額見直し」について、国会で審議されている。
一例をみると、年収370万から770万の層で、自己負担額を現行から8000円余り増やし8万8200円程度に、年収770万から1160万の層では、2万円余り引き上げ18万8400円程度にする。非課税世帯を含むすべての層で、自己負担上限を引き上げるとしている。さらに2026年、2027年にも年収区分の細分化を行ったうえで、さらなる引き上げを計画しており、年収650万から770万の階層では、最終的に1.7倍もの負担増になる。また今回の見直しには、70歳以上の高齢者の外来診療にかかる医療費の自己負担を軽減する「外来特例」についても、大幅な引き上げが盛り込まれている。自己負担上限引き上げ公表以降、患者団体・医療関係者をはじめ、多方面からの批判を受け、「多数回該当」の引き上げを見直す一部修正を検討していることが報道されている。しかし、「多数回(直近の年4回以上)」に該当しない640万人を、回数で線引きし切り捨てるような修正案で解決するものではない。
会見で保団連の質問に答えた大臣発言から、今回の「限度額見直し」にあたり、制度利用者の実態や疾患の種類などの調査・分析を行っていないことがわかっている。また社会保障審議会では、5~15%引き上げをシミュレーションとして示しそれに基づく議論を行っておきながら、予算案への報告事項では引き上げ幅が70%に変わるなど、審議の前提が崩壊しているとも言える。
現役世代が多く加入する健保組合や協会けんぽでは、高額療養費制度の利用件数が10年に渡って増加しており、働き盛りの世代が重篤な疾患となった際のセーフティーネットという重要な制度として機能している。高額療養費制度の自己負担引き上げで、「現役世代の保険料負担抑制」「子ども・子育て支援」を行うと説明されているが、社会保障に充当するとの名目で税率引き上げを続けてきた消費税が過去最高税収となるなかで、将来不安を増幅させることが子育て支援と言えるのか。被保険者の保険料軽減はわずかな額でしかなく、物価高騰が続くなか実質賃金はマイナスで推移している。重篤な疾患やケガで治療を受けながら社会生活を継続する、あるいは社会復帰を目指す現役世代が、支払困難な事態となり、治療中断や生活困窮に陥ることは想像に難くない。
今、わが国は、2人に1人が生涯のうち1度はがんに罹患し、4~6人に1人はがんで亡くなっており、万一の事態は誰にでも起こり得る。国民皆保険制度のもとで安心して医療にかかることができる、適切な治療を継続的に受けることができる高額療養費制度の改悪は、民間保険への依存を強め、余力のある健保組合とそれ以外を区別することにもなりかねない。所得再分配機能が脆弱となるなかで、「経済格差」が「健康格差」という社会にしてよいのか。
超高齢社会での医療費増は当然というほかない。しかし削減ありきの議論ではなく、命を守り、国民が安心して暮らせる医療体制と福祉制度に、貴重な財源をどう振り分けるかを考えることこそが政治のとるべき態度ではないのか。誰もがお金の心配なく安心して医療が受けられるよう、高額療養費制度自己負担上限引き上げを撤回するよう強く求める。