スフィア基準を取り入れた災害避難所へ、環境改善を急げ

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 1月1日、最大震度7の地震が石川県能登半島で発生した。石川県内だけでも200人以上が亡くなり、7万5千棟以上の家屋等が被害にあった。また輪島や珠洲など5つの市町で、約1万7000戸(3月8日時点)が断水状態にあるとされ、インフラの被害も甚大である。

 地震発生からまもなくは、集落単位で身を寄せ合う被災者の姿がみられた。本来開設されるはずの指定避難所が、責任者の不在などで開設されていなかった事例も多くあったという。その後は親戚や知人宅に身を寄せる方、2次避難を行う方もあるなか、今なお、452の避難所で1万人近くの住民が避難生活を送っている。大規模災害では、直接的な原因ではなく、災害時のケガや避難生活による健康状態の悪化が原因で亡くなる災害関連死が取りあげられる。阪神・淡路大震災は約1000人、東日本大震災は4000人近く、熊本地震では200人以上が関連死で命を落とし、避難生活の肉体的・精神的負担にストレスを感じる被災者も多い。避難生活の長期化が命に関わる事態を防ぐことを考えなくてはならない。

 国は、「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」(2022年改定)をもとに、「避難所運営ガイドライン」をまとめ、参考にすべき国際基準としてスフィア(Sphere)基準をあげている。

 スフィア基準とは、アフリカ・ルワンダの難民キャンプで感染症などにより多くの難民が亡くなったことを受け、国際赤十字やNGOがまとめた避難所環境の国際的な最低基準である(1997年-「スフィアハンドブック」最新版2018年)。被災者は「尊厳ある生活を営む権利」をもとに「支援を受ける権利がある」とし、苦痛を軽減するために、実行可能なあらゆる手段を尽くすことを基本理念とする。〇給水、衛生および衛生促進、〇食料安全保障と栄養、〇避難所および避難先の居住地、〇保健医療の4分野について、基準や指標などが示されている。

 避難所の居住スペースは、最低でも1人あたり3.5㎡(畳約2畳分)(調理スペース、入浴区域、衛生設備を除く)というのがスフィア基準である。毎日新聞の調べ(3月4日掲載)によれば、今回の災害避難所の最も狭いところが1人あたり1.65㎡、最大は4.8㎡、その他の避難所は2~3㎡ということだ。スフィア基準は、蛇口1つ(毎分7.5リットル)につき250人、給水所への距離や配置、石鹼の個数なども細かく示している。トイレは、災害の初期段階で50人に1基、中期段階では20人に1基、女性用と男性用の割合が3対1。感染症の発生・拡大リスクを抑えるために、水・飲料水、し尿や廃棄物処理を重要なものと位置付けている。また、年齢、性別、障がい者、ジェンダーマイノリティなどへの考慮、女性や少女の月経、失禁症状のある男女が安心して生活できる備えについての記載もある。

 イタリアでは、自治体が大型キッチンカーを所有し、周辺自治体も協力して被災者に作り立ての食事を提供する。トイレやシャワーはコンテナ式、簡易ベッドと冷暖房が備わった大型テントが家族ごとに用意される。過去の災害の経験から市民保護庁が生まれ、これらの対策の標準化が進められている。

 大規模な災害では自治体単位で被災していることも想定しなくてはならない。ガイドラインに「約50⼈に1個のトイレを確保できるよう…備蓄や整備を進めましょう」と記載して終わりにするのではなく、国が明確な基準を示したうえで県や市町村をリードすることが必要ではないか。公衆衛生を重視し、公共の福祉という観点から、避難所環境を早急に改善するよう求める。