来る参議院選挙での争点と選択

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4月17日の読売新聞の社説は安倍総理に対し、安倍内閣が推し進める憲法96条の改正を参議院選挙に向けて議論主導せよとエールを送っているが、甚だ問題のある主張だ。憲法96条は憲法の改変要件を厳しくし、国会議員3分の2以上の賛成が必要であることを定めた条項である。

自民党は結党以来、憲法改定を党の綱領とし、また、読売新聞も正力松太郎氏以来、憲法改定を悲願として今日に至っている。しかしながら、この悲願は何度も国民の拒否に遭い挫折し、あの圧倒的支持を得た小泉政権でも、この憲法改定には手を付けなかった問題である。安倍政権が高支持率に気を良くし、タブーとされて来た改憲、それに加えて消費税の引き上げを前面に出してきたことはよほど勝算があるのか、政治音痴なのか判断の付きかねるところである。

安倍首相は同日の読売新聞13面の「憲法考」で日本国憲法はアメリカの押しつけ憲法で日本自らが作ったものでなく、日本国民自ら作らなければならないとしている。改憲論者の多くがこのアメリカからの押しつけ憲法であることを第一の理由としている。このアメリカの押しつけと言うことが事実なのか、日本国憲法成立までの経緯を見れば明らかなことで、決して押しつけけられたものではない。

当時の幣原内閣の憲法草案は美濃部達吉らが中心となって作られたが、明治憲法とさして変わらず、鈴木安蔵、森戸辰夫、高野岩三郎ら民間の「憲法研究会」の憲法草案をGHQが参考とし、日本国民のもう2度と戦争をしないという決意と民主主義国家建設を背景に、大多数の国民に受け入れられたものである(この経緯は映画「日本の青空Ⅱ」で詳しく述べられている)。特に女性の人権に関するものは世界で最も進んだものになったと言われている。その訳は、ベアテ・シロタ・ゴードンという、当時22歳だった知日派のGHQ女性文官が、日本での生活で日本女性の人権の低さを経験し、女性の権利条項の起草に加わり強く主張したことによる(2006年2月24日発行の「世界」憲法論文選、岩波書店
より)。

このように日本国民が選んだもので、決して押しつけられたものではない。むしろ、日本国憲法はアメリカの数々の軍事的押しつけを跳ね返す原動力になってきたことは、万民が認めるところである。
日本国憲法は国家権力の暴走に歯止めをかけるものであることを今一度肝に銘じるべきである。国が憲法を変えやすくすることは、国民の権利を蔑にする危険が強くなることである。今でも憲法違反ともいえる法律が次々と制定されていることを思えば、これほど危険なことはない(この点については伊藤塾塾長の伊藤真著「高校生からわかる日本国憲法の論点」に詳しく書かれている)。

7月には参議院選挙が控えているが、大変重要な選挙として捉えなければならない。今、アベノミクス効果として世は浮かれているが、喜んでいるのは経済界の富裕層だけで、中小零細企業、低所得者層は円安による原材料、燃料、食料品の物価上昇に喘いでいる。もし改憲、TPP参加、消費税の引き上げ、窓口負担の引き上げ、医療給付の制限、原発再稼働、防衛費の増額など安倍政権の掲げる政策が、今度の参議院選挙で支持を得るようなことになれば、日本の将来、特に医療界は大変なことになる。今度の参議院選挙は選択を間違えることなく、争点を憲法、消費税、TPP、原発再稼働に絞って考えるべきである。