歴史のなかで勝ち取った選挙権を行使しよう~投票行動で民主主義を前へ

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「未来を花束にして」(2017年/監督:サラ・ガヴロン)というイギリス映画がある。20世紀初めのイギリスで、女性参政権を求め立ち上がった女性達を取りあげた作品である。なでしこジャパンで活躍した澤穂希氏が、「百年前の女性たちが、自分や子供の未来のために、権利を得ようと力を合わせ、行動し、その『夢』を勝ち獲った真実の物語に、心の底から感動しました。」とコメントを寄せている。

日本で初めて選挙が実施されたのは1890年、15円以上の直接国税を納めた25歳以上の男性のみに投票が許された。当時の貴族院議員が、「選挙権を与えても差し支えない」「(思想的にも未熟な若者には)政治上の大権を与えるべきではない」と発言していることからもわかるように、投票権は国から与えられるものであった。納税要件は徐々に引き下げられたが、女性の参政権は戦後改革による衆議院議員選挙法中改正(1945年)まで実現しなかった。18歳以上の国民に認められる現在の選挙権は、先人たちが幾重もの困難を乗り越え、勝ち得た権利なのである。

貴重な権利であるはずの選挙権を行使する国民が減っている。完全普通選挙開始以降、65~70%台で推移していた衆議院選挙の投票率は、1995年の参議院選挙で44%、1996年衆議院選挙で59%と著しく低下した。自社さ連立政権による総選挙以降、政党の離合集散が繰り返されるなかで、投票率は浮上することなく50%をわずかに超える数字で推移している。地方議会議員選挙でも、2019年・統一地方選で全国59市長選の平均投票率が47.5%であった。東京都議選は51.28%、新型コロナが足を遠のかせたこともあるだろうが、20歳代の投票率が26.4%と、60歳代(66.6%)の3分の1という結果であった。

低投票率の要因に、小選挙区制によって死票が増え、得票率と獲得議席数に乖離が生じる点が挙げられる。「日本は世界屈指の不比例代表性」とも言われるほど、自己の選択が活かされにくい選挙制度が「諦め」につながっていることは否めない。不祥事続きに呆れ、「政治離れ」を起こしているとも言われるが、当の為政者は投票に行かない若者の無関心を喜んでいるという。しかし、そもそも国民は、投票行動を、主権者として国の政治に参加する権利であり、公務員の選定に参加するという公務の側面も持つことを自覚しているだろうか。

スウェーデンは、2018年の選挙で87.2%と、世界トップレベルの投票率を誇る。比例代表制・一院制議会であるほか、選挙実施の間隔、期日前投票や投票場所の選択など、投票しやすいシステムが構築されている。しかしそれだけでなく、民主主義の基本価値に立脚するという考えが指導要領の根幹に据えられ、民主主義の教育として学校教育が行われていることに注目したい。政治の視点や考え方についての議論と議論のための情報収集が促される。「学校選挙」という実践では、政党代表の討論会が校内で開催され、模擬投票も行う。校外学習では街頭での選挙運動を学ぶ。選挙権を持たない子どもの時期から、「責任のある市民に育てる」ことを目標に、政治との距離を縮める、投票・政治参加への意識を培う教育が実践されている。

 低投票率の現状は政治の主導権を握られているも同然であり、主権者であるはずの私たちの要求は届きにくい。暮らしやすさ、生きやすさへの要求を実現する政府をつくるための投票である。今は乏しい知識でも、投票を重ねることで政治意識を高め、さらによい1票にしよう。「お灸をすえる」ための1票でもいい。歴史のなかで勝ち取った権利を行使し主導権を取り戻す選挙にしよう。