「より良く生きる」につなげていく歯科医療を~診療報酬での適正な評価と、患者負担の軽減を求める「保険で良い歯科医療を」の声を広げよう~

pdfのダウンロードはこちら

6月16日、衆議院厚生労働委員会で「子どもへの歯科矯正への保険適用の拡充に関する請願」が全会一致で採択された。請願署名の取り組みは、山梨県の母親の訴えがきっかけであった。子どもが学校健診で咬合異常(不正咬合)と指摘されたが、健診結果に従い受診するにも歯科矯正治療が保険適用外のため経済的な負担が大きく、治療を断念した。母親はこのことに矛盾を感じ、「子どもに治療を受けさせてあげられないことが親として悲しい」と語った。「保険で良い歯科医療を全国連絡会」とつながった母親は、歯科矯正の保険適用拡充を求め、山梨県議会および県内19市町村での意見書採択、厚労省事務次官との面談、国会質問でのとりあげなど、確実に理解を広げていった。

学校歯科健診は、学校保健安全法に基づき児童生徒の健康の保持増進を図るために実施される。文部科学省は事務連絡で、健診方法、技術的基準の補足的事項や健康診断票の様式例などについて、周知を図っている。診断項目には、歯肉や歯垢の状態と並んで「歯列・咬合」をあげ、それらの診断結果を「異常なし」「定期的観察が必要」「専門医(歯科医師)による診断が必要」と区分するよう示している。しかし、専門医による診断が必要と指摘された場合であっても、歯科矯正治療の保険適用範囲は、手術など外科治療が必要な場合や、特定の疾病に起因する咬合異常など狭い範囲に限定される。

歯列不正・咬合異常は、将来にわたる歯周病、う蝕のリスクを高めることへの懸念はもちろん、咀嚼や発音、平衡感覚機能や運動能力という、子どもの健全な成長・発達にも影響するといわれている。専門医へのアクセスを要するような異常を認めながら、保険適用の外に置くことで受診が阻まれる環境は適切とはいえない。

 歯科ではこれまでCAD/CAM冠、チタンクラウン、磁性アタッチメント義歯などが新規保険導入されたが、適応範囲や保険点数は不十分なものとなっている。厚労省の2016年度歯科疾患実態調査結果では、「補綴の状況」のうち「一部完了」者が24.3%、「未処置」者は13.4%であった。前回2011年度調査結果の「一部完了」者15.1%、「未処置」者8.1%から増加しており、特に「未処置」者の割合が増加傾向を示したのは、過去40年で初めてであった。これらの改善に向けて、ブリッジ支台第二小臼歯への前装金属冠、金属床部分義歯、ジルコニアなど安全性・有効性が確保され十分普及している技術・材料は、歯科医療機関が積極的に活用できるよう適正に評価し、医療機関が不採算とならない保険点数で保険導入するべきである。また、レーザー治療、歯周組織再生誘導手術などは、評価が著しく低く医療機関での活用が妨げられている。安全で質の高い歯科治療を受けたいという国民の強い願いに応えられるよう、過去に保険導入された技術についても適正な保険点数に引き上げるべきである。

長引く新型コロナの影響で、歯科医療機関も国民生活も厳しい状況にある。感染不安が受診控えを招き、患者さんの口腔の状況も悪化している。当会では「保険でよい歯を広島プロジェクト」をスタートし、請願署名(①窓口負担割合の引き下げ、②健康保険の適用範囲の拡大、③歯科予算の拡充)の取り組みをすすめている。また患者・国民の声をすくいあげる市民アンケートの取り組みも全国で始まった。必要な歯科治療が適切に受けられる環境を整備し、「より良く生きる」ことにつなげていく。そのためにも、診療報酬での適正な評価と、患者負担の軽減を求める「保険で良い歯科医療を」の声を広げていきたい。