「地域医療構想」の真の目的を知り、地域医療が守られる病院再編統合計画を求める

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 1960年代後半に欧米先進国の高度経済成長時代が終わり、景気停滞と物価上昇のスタグフレーションになった。政府の財政赤字の深刻な累積、福祉国家、官僚主義は非効率性が問題となり、英国サッチャー(1979年)、米国レーガン政権(1981年)を皮切りに、構造改革、規制緩和、民営化を軸とする「小さな政府」の改革が始まった。日本でも1981年、オイルショックを機に発出された土光臨調による行政改革以来、日本専売公社、日本電信電話公社、日本国有鉄道の民営化などの新自由主義的な政策転換が進められてきた。そして小泉政権も、新自由主義改革を推進し、構造改革、規制緩和を強引に推し進め、郵政民営化や社会保障費、医療費の抑制などを断行した。

 1990年代初頭にバブルがはじけて低成長時代に入った日本は、大企業・多国籍企業が活動しやすい「グローバル国家」に向けた行政改革に踏み切った。2014年に日本創生会議が「自治体消滅」論を発表し、2040年には全国の半数の自治体が消滅する可能性があるとした。それを根拠に安倍政権は、人口減少と東京一極集中の是正を大義名分とした「地方創生」を策定したが上手くいっていない。そこで、2018年に地方広域統治政策である「自治体戦略2040構想」を、デジタル化を梃に推進し、人口が減ることを理由に病院の再編統廃合を推進しているが、これは新たな周辺切り捨て、広域化政策であり、コロナ禍の医療崩壊につながっている。

 府中北市民病院は、旧甲奴郡、神石郡中山間医療過疎地域の唯一外科的手術が出来る救急告示病院として長年地域住民の命と暮らしを守ってきた。しかし、2012年に、赤字と医師不足を理由にJA府中総合病院に、「公立病院改革ガイドライン」を利用して、地域の実情に合わない状態で再編統合された。110床の病院が60床に縮小され、7名の常勤医師が3名までリストラされた。命と健康の保障が無くなり暮らしも脅かされる地域住民は、2008年に地域医療を守る会を結成して、今日に至るまで15年間草の根の住民運動を継続している。病院は存続しているが、赤字と医師不足の解消は11年経過しても達成されていない。また、地方独立行政法人化されたため地域住民の声が届きにくくなっている。

 2022年11月16日、広島県は「地域医療構想」に基づく「高度医療・人材育成拠点基本構想(新病院構想)」を発表した。その目的は、県民に質の高い医療を提供することと、首都圏に若手医師が流出することを防ぎ、全国の若手医師を惹きつけるための高度・先進医療の提供と医療人材を確保するとされている。さらに、中山間地域を含む医師の偏在解消を図るためでもある。病床数1000床程度の新病院を設立して2030年に開院する。しかし、当計画は病床削減に連動して医師偏在対策と働き方改革を行う三位一体の地域医療構想であり、同じ2次医療圏内で周辺になった地域の医療機関の人員は結果的に削減される。すなわち、県立広島病院診療圏域は高齢者が多い島嶼部を含む広域となっており、移転後も肺炎、心不全、骨折、腹痛、脳梗塞、熱中症といった一般的な病気や怪我で入院治療が出来る「住民の命を守る病院」の存在が不可欠である。

 広島県との懇談では、南区は2030年県立広島病院移転後には、726床の広島大学病院を除くと一般の病気や怪我で入院治療が出来る一般病床がわずか386床になるため地域住民の命の保障が無くなることを強く訴えた。そして、病院が無くなる地域の医療へのアクセス状況の調査が必要であること、また「地域住民の命を守る病院」を確保するため、今後広島県と地域住民・関係者で情報交換・意見交換ができる「広島県立病院跡地活用推進協議会」が必要であることも強く訴えた。政府の「地域医療構想」の真の目的を理解し、地域医療が守られる病院再編統合計画に改善されることを強く求める。