日本学術会議への政治的介入を強める法改正に断固反対する

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 12月6日、内閣府は「日本学術会議の在り方についての方針」を公表し、21日の日本学術会議の総会で、会員の選考などに意見を述べる第三者委員会の設置などを盛り込んだ法律の改正案の概要を示した。松野官房長官は記者会見で、「政府の方針について引き続き丁寧に説明し、日本学術会議の意見も聞きながら、法制化に向けた具体的措置の検討を進めていく」と説明したが、菅前首相がこれまでの政府方針を翻して任命を拒否した理由は、未だ明らかにされていない。

 内閣府方針は、「会員等に求める資質等も明らかにする」とし、「第三者の参画」「外部評価対応委員会の機能の強化」という介入を強めようとしている。今後は、独立した組織とすることも検討し、そうした場合は財政基盤の在り方等も検討するという文言には、言うことを聞かなければ財政措置を取りあげるという脅しの意図すら感じる(自民党プロジェクトチームは、日本学術会議を独立した法人とすることを提言している。2020年)。

 日本学術会議は国の特別の機関として設立され、国費によって運営される。科学者の内外に対する代表機関であり、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的とし、その職務の独立性も「日本学術会議法」に明記されている。政府が国を動かすときに、学術的な研究成果や統計データを根拠として政策立案することは当然であり、それらを持つのが日本学術会議であるともいえる。しかしそれは、政府が有用とした研究だけを許すということではない。

 日本学術会議は内閣府方針を受けて、12月27日に懸念事項を発表した。第三者が会員選考に介入することは、会議の独立性を損なうとともに、6名の任命拒否を正統化するものだと指摘している。さらに、「学術には政治や経済とは異なる固有の論理」があり、一国に限定されない普遍的な価値と真理の追求という学術の役割があると述べている。これは当会の市民公開講演会(2022年6月)で、東京大学名誉教授の広渡清吾氏(日本学術会議21期会長)が語ったことでもある。このことを、私たちは重く受けとめなくてはならないのではないか。

 自民党政権は、内閣府に「総合科学技術・イノベーション会議」を設置し、トップダウンの大型プロジェクトを立ち上げてきた。イノベーションというビジネス分野の概念で、出口(社会・経済的アウトカム)を重視する一方、基礎研究が疎かにされ、人材育成の土壌は崩壊しているとまで言われる。新興感染症対策でも、国防として捉え財源を投入してきた欧米に比べ、日本は中枢機関の人材も乏しく、ワクチンや治療薬の開発にも研究費削減が響いているという。

 そして私たちが抑えるべきは、政府が12月16日に閣議決定した「安保3文書『国家安全保障戦略』」で、「安保分野における政府と企業・学術界との実践的な連携の強化」を挙げていることである。憲法違反とも指摘される敵基地攻撃能力保有という閣議決定が確定事実のように報道され、巨額を投じた米国製トマホークミサイルの購入、欧米やカナダとの防衛協力体制の強化と、戦後の安全保障政策の転換ともいえる事態が国会の熟議もないままに進んでいる。コロナ禍と物価高騰に喘ぐ国民を前に、社会保障削減政策を進め、防衛費倍増という予算案を示す政府の行動は、それぞれが切り離されたものではない。

 長期に渡る政策が大学教育・科学技術研究を委縮させ、日本の研究・開発力を衰退させてきたことを省みることなく、任命拒否を既成事実化し、会議の独立性を損なう法改正など許されるものではない。私たちは科学・学術への政治介入ともいえる法改正に断固反対する。