歯科施設基準の研修は厚生労働省の責任で

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平成30年3月5日の厚生労働省告示第43号において診療報酬の算定方法の一部が改定され、歯科点数の改定において、新たにいくつかの施設基準が設けられた。その中に「研修の受講」を届出の要件とする施設基準がある。点数改定が告示された時点で届出要件に適合した研修の場がないにもかかわらず、研修受講が届出要件とされており、これでは届出ようがない。現状は、厚生労働省ではなく、保険医協会、歯科医師会が、その要件に見合う研修を急遽開催しそれをもって、届出をせざるを得ない。保険医は同じ条件で保険診療を提供しなければならないが、保険医協会、歯科医師会に所属しない保険医は、その研修を受けようもなく当然、届出が出来ない。受講出来ない医療機関と届出をした医療機関で、患者が受ける医療は同じであっても一部負担金が変わり一物二価の状況となる。この様な研修を届出要件にした施設基準は、明らかに不公平で問題であり、厚生労働省が責任をもって研修を提供出来るまで施設基準から要件を外すべきである。また、どうしても改定に間に合わせるのであれば、全国各地の保険医が平等に受講出来るよう点数改定が告示される前に厚生労働省自ら要件に適合する研修を開催すべきである。

例えば平成30年4月改定における、歯科点数表―第1章基本診療料第1部初・再診料の注の1に規定する施設基準の届出要件としている研修は、「歯科外来診療における院内感染防止対策に係る研修を受けた常勤の歯科医師が1名以上配置されていること」となっている。歯科医師は養成機関である歯科大学等で、厚生労働省、文部科学省が求める教育指導要領にそって教育を受け、コンピュータによる客観試験(CBT)1や客観的臨床能力試験(OSCE)2をクリアーし、卒業試験に合格し、厚生労働省が実施する歯科医師国家試験に合格して、初めて歯科医師となる。歯科医師として必要な教育、医療技術は当然具備しているとして、厚生労働省が国家資格として認めた訳で有り、その歯科医に更に「院内感染防止対策に係る研修」を求めると言う事は、文部科学省や厚生労働省が自ら行っている上記の教育並びに国家試験を形骸化する事になる。院内感染防止対策ができない歯科医師は存在しない。勿論、保険医は日々進歩する医療について情報収集し生涯、研修する義務があることは、承知の上である。

また、直近の厚生労働省調査によると、平成28年の病院と診療所勤務の歯科衛生士(以下、DHとする)数は約118,000人。病院と診療所の歯科医師数は約100,000人と報告されている。一診療所で複数のDHを雇用している医療機関も多数存在する中で、今のDH数では、DHを雇用したくても雇用出来ない医療機関が多数存在する。現実問題として診療所数に対してDH数が圧倒的に不足しており確保が不可能な状況である。にもかかわらず施設基準のいくつかに常勤のDHを要件とするのは不合理である。DHの業務範囲は歯科医師でも医療サービスとして提供出来るものであるので、このDHの要件も削除することを求める。現実にDHのいない診療所に於いては、歯科衛生実地指導料に係る指導等は歯科医師自らが行っており、その指導に係る診療報酬の算定は当然認められるべきであり、算定出来るように改正を求める。

なお、上段の“研修の受講”については、1月8日に厚生労働省、2月1日に中国四国厚生局に、要件削除の要請書を提出済みである。

 

注釈1CBT:大学1~4生までの基礎的・普遍的医学知識についてコンピュータによりランダム出題される試験

注釈2OSCE:模擬患者による医療面接やマネキンによる処置や実践に即した試験。1,2共に4年生までに合格する必要がある。