選挙の年、感情や空気に惑わされてはいけない

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今年は4月の統一地方選挙や7月の参議院議員選挙のほかにも、憲法改正を問う国民投票や衆参同時選挙の可能性など、沢山の選挙が行われて今後の日本の進む道筋を決める年になりそうだ。戦後長く続いた55年体制を変えなければならないという感情と空気に流された国会議員の「政治改革」という大合唱による投票行動の結果、1994年(平成6年)に小選挙区制が導入された。1994年以前の投票分布図では小選挙区制が実施されると、第一党の自民党が圧倒的に有利となり、7割の議席を占めると試算され「劇薬」と言われていたにもかかわらず小選挙区制は実現してしまったのである。それまでにも旧鳩山内閣が再軍備・憲法改正を推進するために、また田中内閣が得票率50%を割る保守退潮化の傾向に際して、小選挙区制導入を試みた理由は明らかであろう。そして1993年に戦後38年間続いた自民党の一党支配が崩れ保守が分裂したとき、社会党、民社党、公明党など、小選挙区制に反対していたかつての野党が、日本新党の細川護熙を中心に細川内閣を形成し、1994年に小選挙区比例代表並立制が採択された。その結果、日本の政治勢力図は大きく変化し、一強多弱の状態に陥った。

憲法を無視した言動や憲法違反の法案も通してしまう見識も常識もない安倍政権が7年もの間続いているのは、一強の勢力構図のためにただ選挙に勝っているという理由だけだ。民主党政権に失敗のレッテルを貼り付け、もし野党に政権交代してしまったら大変なことになるという不安感情が安倍政権を支えていると言っても良い。2017年の臨時国会冒頭での解散総選挙のまえに安倍総理は解散総選挙を全く考えていないと言っていたにもかかわらず、国民を不意打ちにして考える時間を与えないというだまし討ちのテクニックを使った。今回も衆参同時選挙は頭の片隅にもないと言っているが、10%の消費税導入前にやってしまおうと考えていると思われる。情報を操作し、不安を煽り、抜き打ちで実行するという安倍政権のやり方は、まさに詐欺師のテクニックそのものと言える。

毎年、ノーベル賞の季節になると注目されるスウェーデンという国は、税によって財政運用される包括的福祉を生命線にしている。胎児から墓場までのキメ細かな福祉政策は、当然のことながら膨大な経費を必要とする。換言すれば、税負担意欲を刺激できなければ、作動不能に追い込まれてしまう。そして、負担意欲を維持するためには、公正度の高い政治制度と倫理感の高い政治家の行動が要求される。「見える政治」とか「開かれた政治」だけでは、25%もの消費税や国民負担率約75%という税制を市民が受け入れることはできないであろう。この国で発祥したオンブズマン制度は、公正原理で人権を保護する砦であり、また、一票格差を極小化した公平度の高い選挙制度、新聞や青年運動への公庫補助制度などの少数意見の噴出を可能にする仕組みも同じ公正原理を基礎にしている。

一方、民主主義の存在さえ疑わしいわが国では、せめて国民が自分に与えられた権利としての投票権を行使することからはじめなければならない。また政府は社会的共通資産としての教育・医療福祉・環境を国の中心施策とし、その分野に予算と人員を重点的に配分しなければならない。崩壊しつつあるわが国の医療福祉の現状は、すでに現場でのわれわれ当事者の努力の限界を超えている。今こそ国民と一体となってフェイクニュースによる感情や空気に惑わされずに、平気で嘘をつく安倍政権に審判を下さなければならない。