組織的な対応でペイハラから医療機関の職員を守る
2025年6月に改正された「労働施策の総合的な推進ならびに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」により、10月1日よりカスタマーハラスメント対策が義務化された。第33条第1項は、事業主は、顧客、取引先、利用者等の言動から労働者を守るために必要な措置(事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、対応の実効性を確保するために必要なカスハラの抑止のための措置)を講じることとされている。
厚労省はカスハラを、「社会通念上許容される範囲を超えたもの」で「労働者の就労環境が害されるもの」と定義している。この定義でいけば、実際の被害が生じていなければカスハラではないということもできそうだが、従業員を守るという法の趣旨からすれば、要求内容や態度(どちらか)が社会通念に照らして著しく不当なものと言えるだろう。要求内容も態度も限度を超えないものであれば正当なクレームということになる。医療機関で言えば、実施できない治療法を求める、取り扱えない薬の処方を求める、発生していない損害の賠償を求めることはカスハラとなる。広島弁護士会のカスハラ対策セミナーでは、暴力行為はもちろん、暴言や脅迫、退去を求めても動かない不退去なども、社会通念上著しく不相当なものとして、刑事罰の対象になり得るとのことであった。
m3.comが実施したアンケート(2025)では、1318人の医師の約6割が、ペイハラを受けたことがあると回答。その内訳は「暴言(精神への攻撃)」が79.5%で最も多く、「過剰・理不尽な診療・処方の要求」「業務妨害(居座りなど)」が続いている。長崎県医師会の調査(2020)では、ペイハラを受けた職種は、看護職員が89.8%、次いで事務職、医師となっていた。職員がペイハラ対応に時間をとられれば、業務が滞り他の患者にも迷惑がかかる。対応した職員の精神的な負担は大きく、ともすれば退職を選択するような状況も生じている。
患者や家族を相手に、信頼関係を回復するよう努めながら診療を継続することが多かった。しかし少なくない医療機関がペイハラを経験している今、患者・家族に診療協力義務や施設管理権に従う義務があること、事業主には職員への安全配慮義務を果たす責任があることを、再確認しておきたい。そして医療機関は常に組織として、「労働者を守る」ための対応を具備しておこう。
*カスハラ=カスタマーハラスメント…顧客や取引先などの言動が社会通念上許容される範囲を超え、労働者の就業環境が害されること
*ペイハラ=ペイシェントハラスメント…患者やその家族が医療従事者に対して行う著しい迷惑行為