「一部保険外療養」の撤回を求める要請書
2026年5月29日、健康保険法等の一部を改正する法律が成立、「一部保険外療養」が導入された。
8月5日、OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた技術的検討会は、対象医薬品の範囲や別途負担を求めない者・療養の範囲を示した中間とりまとめを公表。9月16日には社会保障審議会医療保険部会で、OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けたとりまとめが了承された。生活保護受給者や対象医薬品を50週以上処方する場合等は特別の料金の負担を求めないとされているが、対象は限定的であり、患者の多くが負担増を強いられることとなる。
9月17日、全国保険医団体連合会らが行った厚生労働省要請・懇談では、難病患者、運輸関係の労働者等から切実な声が報告された。厚生労働省保険局医療課の担当者は、制度施行後に影響調査を行い、必要があれば見直すことを繰り返すばかりで、多くの問題を内包したまま2027年3月施行に突き進もうとしている。9月30日付で告示・通知等が発出されたものの、医療現場からの疑問や想定される不合理点は解消されていない。当会は、患者、医療機関の混乱は必至のものとして、以下の事項を要請する。
一、「一部保険外療養」を撤回すること
OTC類似薬の「一部保険外療養」に関する疑問および不合理点
制度の問題点
- 「一部保険外療養」は、既に保険収載されている薬について、療養の給付の範囲を縮小するものである。
- 国の本来の役割は、全ての国民に、保険医療機関に受診する機会を保障し、必要な医療が受けられるようにすることである。「一部保険外療養」によって患者負担が増加し、受診を見合わせる可能性が高まる。
- 医師が処方する薬と、患者の自己判断で購入するOTC医薬品との間に「公平性」を求めること自体が誤りである。
- 「公平性」を実現するとしても、OTC類似薬の市販価格を下げる方法を検討していない。
- 健康保険法における「一部保険外療養」は、対象が薬剤に制限されておらず、国会審議を経ることなく範囲の拡大が行われる可能性が否めない。
- 「将来にわたって7割の給付を維持する」と定められている健康保険法附則に反している。
医師が対象医薬品を「長期使用」する必要があると考える場合
- 「長期使用」について、「暦年で365日連続して使用していることを形式的に求めるものではない」としているが、受診の機会が確保できず処方が途切れる、疾病の状況等により処方薬が変更となる、残薬調整などのケースが「長期使用」から除外されることとなり、合理性に欠ける。
- 「過去の処方実績として確認する期間は少なくとも6か月程度」とあるが、患者が制度を熟知しているとは言い難く、医療機関で処方実績を確実に把握することは困難である。また、医療機関や薬局の実務に多大な負担が発生する。
【内服薬】
- 成分・効果の異なる薬剤に対し一律に線引きを行い、「長期使用」の定義を「年間処方日数が概ね50週」とすることについて、医学的根拠が乏しい。
- OTC医薬品と医療用医薬品を同等のものとして扱うのであれば、禁忌等の記載事項を同一にすべきである。例えばフラボキサートでは、OTC医薬品の添付文書に、「男性は『服薬しないでください』」と記載されている。一方、対応しうる医療用医薬品の添付文書では男性への投与を禁忌としていない。
- OTC医薬品を選択した患者について、飲薬や副作用の状態を確認することができないことから、治療に支障が生じる懸念がある。
【外用薬】
- 変形性膝関節症等の慢性疾患は完治が困難で、生活や仕事のためには湿布等の処方で疼痛緩和が必要となる。特別の料金を課すことは受診抑制につながりかねない。
- 鎮痛消炎剤の外用薬については2028年度末までの経過措置として、「画像検査などで慢性かつ重度の疾患であることが客観的に確認」できることとあるが、慢性かつ重度であることと客観性があることは、必ずしも同等ではない。
難病患者、国の公費負担医療の対象者
- 難病に指定されていないことを理由に、継続的に管理が必要な疾病を配慮対象から除外することに合理性はない。
生活保護受給者
- 生活保護受給者ではない低所得者の受診抑制が起こらないよう、配慮対象を再検討すべき。
医師(医療機関)の負担
- 処方薬が77成分1042品目に該当するか、配慮対象の子どもであるか、OTC医薬品の効能・効果に該当するか等、複雑な判断や確認が増加し、診療以外の負担が増える。
- 配慮対象については、その旨をレセプトに記載することが求められているが、既に事務負担が増加している医療機関にとって過度な負担となる。
- 「一部保険外療養」に関する特別な料金負担が発生することについて、国からの周知が十分なされておらず、患者の理解度は十分と言えない。新たな負担増に関する説明は医療機関や薬局の負担となり、院外処方を行う薬局からの問い合わせも増加することが懸念される。