『国連障害者権利条約』の目指す共生社会の実現に
厚生労働省の調査によると、2013年の障害者は推計で787万9千人(全人口の6.2%)が、2016年には936万6千人(同7.4%)に増えている。内訳は、身体障害が436万人・知的障害が108.2万人・精神障害が392.4万人であり、10%になる日が近いとしている。このように障害者は私たちのごく身近に存在しているが、その実態については案外知られていない。2016年「きょうされん」(注1)が実施した「地域生活実態調査」では81.6%が相対的貧困以下、98.1%は年収200万円以下、生活保護受給者は障害のない人の6倍以上に及んでいる。主たる原因は障害年金の低さと低賃金にある。障害者の半数は働いているが、一般就労はわずかであり、多くは最低賃金をかなり下回る「就労継続支援B型事業所」(注3)で働いている。
2017年7月、倉敷市の株式会社「あじさいの友」などが「障害者就労継続支援A型事業所(以下A型事業所)」(注2)5か所を閉鎖し220人を解雇した。同じことが福山市でも起きた。2017年11月17日、福山市のA型事業所である一般社団法人「しあわせの庭」で働いていた障害者112人と職員32人が一斉に解雇された。
このようなことが起こったのは、2017年4月、厚生労働省が補助金を利用者の賃金に充てることを原則禁止にしたことが契機となったが、2006年に施行された障害者自立支援法で障害者関連事業への規制を取り払い、株式会社も参入出来るようにしたことに本当の原因がある。それによってA型事業所が大幅に増えたが、約半数は株式会社だった。その中には障害者福祉の理念や経営意識に欠けた補助金目当ての株式会社があり、利用者数や就労時間を水増しした給付金の不正受給も後を絶たず、規制緩和の副作用が目立ってきている。
元々、国の障害者福祉への支出が少ないこともあり、福山市にあるA型事業所19か所は日常品などの支出を切り詰め、障害者の為に真面目に経営している施設も多くあるが、7割に近い事業所が赤字経営を強いられている。
「しあわせの庭」は利用者に、事前の説明もなく解雇通知書を郵送してきた。内容は明日の日付で解雇する事、再就職の支援は行政に任せる事、10月・11月の給与は払えないとの内容だった。福山市は、「しあわせの庭」の経営難が判明した時より、利用者保護に取り組むよう改善勧告を出していたが、それらを無視したのである。このような障害者の人権を無視したやり方に、利用者や家族は「破産寸前だったのになぜギリギリまで募集していたのか」「明日からの生活をどうしよう」「せっかくできた友人と別れるのが辛い」など、怒りや不安を口にしている。
障害者とかかわりのある精神科医は「障害者が失ったものは単に収入だけではありません。働くことを通して同僚と築いた人間関係、さらには安心して過ごせる居場所、そして最も大切な人間としての誇りです」と話している。
2年前の「やまゆり園事件」の「重度障害者は不幸を作る事しかできないので、いないほうがいい」という被告の殺人正当化の発言、「LGBTは子供をつくらない。つまり『生産性』がない」との自民党杉田水脈衆院議員の投稿、そして、「しあわせの庭」での人権無視の解雇は多くの人を傷つけた。これらに共通するのは、経済成長に役立たない人への差別・人権無視の考えとつながっているように思える。私たちは、日本も批准した「国連障害者権利条約」が掲げる、どんな重い障害があっても互いに尊重し人間としての尊厳をもって生きる権利が認められた共生社会を目指します。この世界に必要でない人はいないのです。
【主張関連資料】
(注1)「きょうされん」1977年に障害のある人たちの願いをもとに、16ヵ所の共同作業所によって結成され、現在は、就業系事業をはじめ、グループホームや相談事業所など障害のある人が生きていく上で関わるすべての事業を対象としており約1850ヵ所の加盟事業所により構成されている。
(注2)「就労継続支援A型事業所」一般企業での就労が困難な障害者と雇用契約を結び、最低賃金以上の支払いを保証する。2006年施行の「障害者自立支援法(現「障害者総合支援法」)」で制度化。全国約3600カ所、約6万6千人が利用する(17年)。
(注3)「就労継続支援B型事業所」A型事業所とは違い、雇用契約を結ばず、働く場の提供と就労訓練を行う。全国約1万1152施設、23万1567人が利用(17年)。平均賃金は月額1万5033円(15年度)で、A型事業所の月額平均賃金6万7795円の4分の1程度。