処罰規定を持ち込む感染症法「改正」案に反対―政府の信頼を取り戻し、医療現場への理解を拡げて―
処罰規定を持ち込む感染症法「改正」案に反対―政府の信頼を取り戻し、医療現場への理解を拡げて―
1月18日から通常国会が開会し、首相の施政方針演説、代表質問が行われている。累計5000人(1月22日現在・4981人)にも及ぶ感染症対策が中心になるものと考えたが、首相の施政方針演説では6分の1程度触れられたに過ぎなかった。
11月下旬以降、全国で新規感染者は増加を続け、12月には当地でも、人口10万人あたりの感染者が大都市並みの数となった。1月下旬の現在は減少しているようだが、重症者は多く、地域医療がひっ迫していることに変わりはない。都市部では療養施設の不足から自宅待機者が増加し、厚生労働省が1月16日に発表した数字では、全国で3万208人が「自宅療養」となっている。広島も一時は病床使用率ステージ4(爆発的感染拡大)の水準に達した。療養中に容体が急変、自宅で死亡する事例も出るなど、「いつでも」「だれでも」必要な医療が受けられる国民皆保険制度は崩壊の危機にある。
このような状況下で開かれる国会に、政府は感染症法「改正」案を提出する。感染防止に必要な法案審議が、なぜここまで遅れたのかも疑問だが、この「改正」法案に、患者、医療機関への処罰規定が盛り込まれていることは甚だ理解し難い。
患者、感染者が、入院措置に反したり、調査や検査を拒否したりした場合などに刑事罰を科すというが、先に述べたように現在は入院施設が不足している状況にある。患者の療養環境の整備を行う政府の責任はどこにいったのか。患者の多くは、他者への感染拡大を危惧し、家族感染や職場感染に不安を感じながら生活している。その不安を払しょくできるほどに十分な検査体制を整えていると言えるのか。結核・ハンセン病患者の強制収容の反省に立つ現行法は、患者の人権を尊重し、適切な医療の確保と適確な感染症対策を謳っている。患者の人権を損なうだけでなく、罰則を科すことで検査を敬遠する人を増やしかねない「改正」案は、感染症対策としても問題である。
民間病院に対しても、患者の受け入れを拒むとペナルティを科すとしている。「改正」案に正当性を持たせようというのか、テレビは民間病院の受け入れが少ないと繰り返している。対応の遅れを見かねた自治体は、行政と地域医療が連携しでき得る対策を模索している。診療所での検査対応や一般病院での中等・軽症者の受け入れなど、地域や医療機関の実態に合わせた協力体制が手掛けられているが、政府から十分な支援がされているとは言えない。
冬場の感染拡大が強く懸念されるなか、政府はGoTo政策を前倒しで導入し、その後は限定的な範囲での緊急事態宣言。突然のワクチン担当大臣任命も、政府内不一致で走り出しから混乱の様相である。さらには、このような状況下でも、公的病院の統廃合計画や厚労省(国立感染症研究所含む)における3000人規模の合理化目標が維持されている。感染拡大によって受診抑制が進むなか、地域医療の維持や感染者対応に腐心する医療機関、医療従事者への配慮がなされているとは言い難く、一方的な罰則導入は納得できるものではない。
近親者が看取ることができない感染症の対応は、医師・歯科医師、医療従事者にとっても辛く厳しいものであり、精神的な負担は計り知れない。現場のモチベーションを維持するには、政府が医療現場の実態を十分に理解し、行動を伴ったメッセージで、国民が積極的・能動的に協力する環境をつくることが必要とされているのであり、罰則規定を持ち込むことではない。根拠と一貫性のある感染拡大防止対策、医療活動や生活の維持に必要な補償、情報公開と適宜・明確な説明によって、政府への信頼を取り戻し、感染症克服につなげることを強く求める。