参院選を、社会保障重視へと転換する契機に
これまで2回に渡り延期されてきた10%への消費税増税が、今また揺らいでいる。2018年6月の「骨太方針」で、2019年・令和元年10月から引き上げると言明していたはずだが、4月に首相側近の萩生田幹事長代行が、インターネット番組で、消費税増税延期と解散総選挙に言及したという。麻生財務大臣がすぐさま打ち消し、巷では「観測気球(世論の反応などを探るために、わざと流す情報)」と揶揄する声も聞かれている。大阪・沖縄の衆院補欠選挙の結果が、自民党に、7月に控える参院選への危機感を持たせたことは間違いないだろう。この補選とその直前の大阪ダブル選では、自民党内や連立している公明党との足並みの乱れも露呈してきている。
消費税増税が経済にダメージを与えることに疑いの余地はない。加えて、藤井聡京大大学院教授は、「リーマンショックや大震災より消費税増税の方が消費の下落は大きく、しかも影響が長く続き、元の状態に戻るのに時間がかかる」とし、「消費の下落が今も続きデフレから脱却できていない中で、消費税を10%に増税すると日本経済は破壊する」と述べている。衆議院予算委員会の公聴会に公述人として出席した明石順平弁護士は、2012年を「100」として2018年と比較し、「増税と円安で物価指数は106.6と急に上がった。名目賃金の伸びは102.8と、物価の伸びを大きく下回り、実質賃金は96.4と急落、消費は90.7に冷え込んだ」と、アベノミクスを解説している。政府が「戦後最長になった可能性がある」と指摘している現在の景気回復について、日本経済新聞の調査でも、78%が「実感していない」と答えている。この間の保団連受診実態調査では、高額な検査を控えたり治療を中断したりする受診抑制が広がっていることが把握されており、消費税増税は消費だけでなく、命と健康にも大きな影響を及ぼすのである。
消費税が8%に引き上げられた際の政府広報には、「消費税率の引上げ分は、全額、社会保障の充実と安定化に使われます」とある。しかし実際はどうだったか。2017年度は消費税増収分8.2兆円のうち、1.35兆円しか社会保障の充実策に充てられていない。診療報酬・介護報酬の削減、生活保護費の削減、後期高齢者医療の保険料引き上げ、年金支給額も減少し、6年間で4兆円近い社会保障費が削られている。
しかし現政権の問題はそれに留まらない。経済支援と銘打ったバラマキ外交で50兆円以上が使われ、対GDP比1%以内とされてきた防衛費は1.3%になるという。領土問題も大きく後退した。「TPP断固反対」は推進へと翻し、種子法、水道事業民営化と、国の根幹をなす事業を外国企業に差し出そうとしている。自衛隊の日報隠蔽、裁量労働制のデータ捏造、森友事件における公文書改竄、「基幹統計」の不正。いずれの問題でも、解明に協力するどころか、与党は委員会開催要求すら拒否して逃げ回っている。GDPの下落率、赤字国債の増加率、失業率の増加、貧困率、出生率と、ワースト記録を数えればきりがない政権が存続を続けている土壌には、世界報道自由度ランキング67位という現状があるのではないだろうか。
7月の参院選が近づくと、消費税増税をめぐる甘言や争点外しなど、あの手この手で国民を欺き、投票率を下げようとする動きが強まることが予想される。しかし信任を与えたあと待つのはさらなる社会保障の削減と経済の崩壊、そして安倍首相の悲願の「改憲」である。主権者であり納税者である私達は、6年間の政権運営を振り返り、信頼できる政治を取り戻し、この国の舵を切りなおすために賢明な判断をしなくてはならない。