患者と医療機関に負担と不利益を持ち込む「オンライン資格確認義務化」に反対し、企業主導・市場原理優先の「マイナンバーカードの保険証使用」を許さない
2022年8月10日、中央社会保険医療協議会は、「2023年4月からオンライン資格確認システムの導入義務化」の規定を、療養担当規則に盛り込むことを答申した。このシステムでは、マイナンバーカードを保険証として使用することが義務付けられ、医療機関は患者の希望に対応できるよう必要な機器や体制を整備しなければならない。そして、現行の保険証は、2024年度中を目途に保険証の原則廃止も計画されている。
政府は2015年10月、デジタル化の一環として、国民の社会保障や税などの一元管理のためにマイナンバー制度を開始した。そしてこの制度を実働させるために、数多くの特典を設けてマイナンバーカードの普及に努めている。しかしカードには、個人の戸籍や社会保障、税などの非常に重要な個人情報が入っているため、開始から7年経った今でもカードの取得率は47.4%にすぎない。すなわち、重要な個人情報が本人の意図しないことに利用される危険性があり、世界的にも脆弱なセキュリティ環境に、個人情報漏洩を危惧している者が多いということが言える。
現在普及している保険証は全く問題がなく、フリーアクセスの国民皆保険制度を維持する重要なツールになっている。しかしマイナンバーカードを保険証として使用することになれば、傷病歴という重要な個人情報が、口座情報等とともに、民間業者の手で管理されることになりかねない。また超高齢社会では、新システム導入で、患者・医療機関に相当な負担を強いることは想像に難くない。
今の政府は、長引くコロナ禍で多くの医療難民や、経済難民が発生しているにもかかわらず、新自由主義に固執した「自治体戦略2040構想」による統治構想改革を維持している。この政策は、平成の大合併で広域になった基礎自治体を、人口20-30万人というより広域な単位とし、「公共施設等総合管理計画」や「地域医療構想」での公共施設の再編・統廃合、公共事業の民営化を進めようというものである。さらにデジタル庁を設置し、行政のデジタル化及びその標準化・共同化を図ることで、首都圏・関西圏での広域的行政サービスの展開、広域連携、多核連携型経済社会の構築(政令市、中核市育成とスマートシティ構想)を推進するとしている。自治体の計画・施策の決定に民間企業が参入するための環境を整え、マイナンバーカードと各種カードを結合するなどして、住民の個人情報は「オープンデータ化」されビジネス活用されていく。民間企業が自治体を主導し、住民の情報も民間企業が一元管理する社会で、地方分権・住民自治(民主主義)は今以上に形骸化するだろう。金権選挙や統一教会などの組織票で当選した烏合の衆を、強権的な権力者が鵜匠の如く操り、数の力で民意に反した法案を強行採決している。骨太の方針からわずか2か月間という短期間で、国民や医療関係者に十分な説明もないままに「原則義務化」を決定した中医協「答申」は、今の日本の政治の劣化と民主主義の形骸化を象徴している。
患者の権利を擁護するリスボン宣言は、「医師は自らの良心に従って患者の最善の利益のために行動すべき」と述べている(1981年9月WMA総会で初採択)。しかし宣言が法制化されていない日本では、患者の不利益を防ぐことで、医師や歯科医師が療養担当規則違反を問われることになり、国民の命と健康を守る保険医として納得できるものではない。
市場原理、経済的利益優先の「マイナンバーカードの保険証使用」、患者と医療機関に負担と不利益を持ち込む「オンライン資格確認義務化」を絶対に許してはならない。声をあげ、行動しよう。