瀬戸内の海を原発のゴミ置き場にしていいのか~地方の暮らしを支える交付税制度に~
中国電力と関西電力が、山口県熊毛郡上関町に、原発の使用済み核燃料の中間貯蔵施設の建設を提案した。2日に電力会社からの提案を受けた上関町長は、同月18日の臨時町議会で調査受け入れを容認する意向を表明。町議の過半数が賛成し、調査受け入れが決定された。あまりに早い結論は、町民はもちろん、周辺自治体への説明、合意形成を軽んじており批判の声もあがる。背景には、独禁法違反で707億の課徴金を負い、独力で原発敷地内に建設できないという懐事情もあるのではないか。
山口県の最南端に位置する上関町は、室津半島の先端部と長島、祝島などの島々からなる。海にはスナメリやカンムリウミスズメなどの希少生物が生息し、広島市からも約80kmと近い。そして祝島は1982年から40年以上、原発建設計画に反対の声をあげている島である。2009年、当会は祝島を訪れ、島民から現地が知る原発建設計画の実態を聞いた。この視察が広島保険医新聞の連載「原発よりも命の海を」が始まる契機となった。
中間貯蔵施設とは、原発から排出された核燃料を一時的に保管する場所とされる。50基以上の原発があるが、使用済み核燃料の保管場所は、東京電力が建設した青森県むつ市の施設(2023年度中に事業開始見込)のみ。使用済み核燃料は各原発の中のプールにたまり続け、ほとんどの原発で10年以内に満杯になると言われている。原発を推進してきた日本は、使用済み核燃料を再処理工場でMOX燃料に加工し、原発で再利用する「核燃料サイクル」を計画した。しかし青森県六ケ所村の再処理工場は14兆円を超える費用をかけてもトラブル続きで稼働できず、核燃料加工施設も進展しない。すでに破綻していると言われる「核燃料サイクル」にしがみつくが故の「中間貯蔵施設」というわけだ。瀬戸内の海を、使い道がなく、捨て場もない原発のゴミ置き場にするだけでなく、セシウムやプルトニウムなど多くの放射性物質を含む核燃料に万一のことがあれば、隣県の広島にも深刻な影響を及ぼすことになる。
原発を持つ諸国は、リサイクルではなく、地下深くに埋めて固めるなど「直接処分」にシフトしてきているという。フィンランドでは、カプセルに入れた使用済み核燃料を、花崗岩の地層まで掘り下げたうえで、コンクリートで埋め永遠に封じ込める。プルトニウムの分離は核兵器に転用される危険性があると、アメリカでも再処理計画は中断されている。再処理やリサイクルなどという余計なことで危険度を高めるより、そのまま処分した方がいいと考える国が増えているそうだ。諸外国に倣って、早期に処分方針の転換を行い、地震の多い日本に適した処分方法を研究すべきではないのか。
上関町議会で町長に賛成した議員は、経済の停滞と財政逼迫を理由に、工事発注などの経済効果と交付金に期待を寄せる。少子高齢化が加速するなか、経済が疲弊し税収の減少に苦しむ地域が、将来にリスクの伴う施設の受け入れを選択するケースが多く見受けられる。イギリス・ウェールズの島は、1970年代、原発がもたらす財源が島のインフラを支えていた。しかし2019年、日本の原発輸出政策が凍結され、島の暮らしは存続すら危ういという。原発依存は、街の持続可能性を原発に委ねることになりかねない。地方の小さな町が高リスクの選択に追いつめられなくとも、持続可能な暮らしのあり方を決定できるようにしなくてはならない。交付金を報酬や代償のように使うのではなく、都市部との均衡を図るためにどう活用するかを検討してほしい。そして中間貯蔵施設という曖昧な名称を使わず、使用済み核燃料の処分に本気で取り組むべきだ。