行政として誠実な態度で保険証廃止を凍結し、「マイナ保険証」は制度設計から見直しを~患者・医療機関双方が喜べるデジタル化を目指せ~

pdfのダウンロードはこちら

 マイナンバーカードを保険証化した「マイナ保険証」のトラブルが止まらない。広島県保険医協会が行った資格確認システムトラブル調査でも、全国で集約されるものと違わず、6割超の医療機関でトラブルが発生していることがわかった。医療機関以外でも、公金受取口座や障害者手帳との紐づけの誤りなど、様々なトラブルが多発し、4月以降はカードの返納が増加、6月だけでも2万件の返納が発生する事態となっている。保団連や保険医協会の実態調査公表で、来秋の健康保険証廃止に危機感を抱く世論がひろがり、資格確認書の有料化は撤回され、申請方式としていた交付も「積極発行」を検討するという。健康保険証を廃止して、マイナ保険証を持たない方に、同じ方法で資格確認書を発行するなら、健康保険証を存続させればよい。そのための費用や自治体職員の負担を軽んじすぎている。

 トラブル調査では、顔認証ができない、カードリーダーが動かないなどのエラーから、被保険者資格が確認できず、健康保険証で確認した事例が多くあった。しかし初めて来院した患者で資格が確認できず、健康保険証を持参していないとなると、医療機関では全額自己負担をお願いせざるをえない。厚労省は患者の全額負担と医療機関の負担軽減を図るとして、7月初に新たな対応策を示した。患者は「被保険者資格申立書」を書き、医療機関は氏名などを確認したうえで、申立書の記載内容に沿った割合で自己負担分を支払ってもらう。高齢や障害で申立書が書けない場合はどうするのか。複雑化した高齢者の窓口負担割合は、年齢で区分できるものではない。異動や保険料未納など、患者の記憶と資格内容が一致しない場合もあり、未収金が防げる保証はない。支払基金で被保険者資格が確認できたとしても、確認作業にどれだけ時間がかかるか、いつ払われるのかはわからないという。加入世帯の1割超で保険料の滞納が生じている市町村国保の現状をみると、「無保険」というケースもないとはいえない。万一「無保険」であった場合は、保険者間で按分し医療機関の未収金を防ぐというが、これまで保険料滞納によって全額自己負担を強いられてきた加入者との整合性をどうとるのか。マイナンバーカードが、これまで蓄積されてきた厚生労働行政を崩壊させてしまっているとしか思えない。

 全国からの訴訟参加が1200人を超えた東京保険医協会の「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」は、6月29日に東京地裁で、第2回の口頭弁論が行われた。この日、国側は、システム導入には補助を行っている、「医療機関の負担は大きいとはいえない」と主張した。多くの医療機関でトラブルが発生するような機器・システムを、多額の税金を使って導入させ、事務や経費に甚大な負担を強いている自覚がないのか。さらにランニングコストを補うはずの加算(医療情報・システム基盤整備体制充実加算)は、特例(4月~12月)下でも、1日7人の初診患者、再診であれば1日19人が24日間毎日来院し続けなくては赤字と試算されている(維持費9千円/月、初診率15%として保団連が試算)。そもそもマイナ保険証を使用する人が増えないのだから、患者は窓口負担が増えただけ、医療機関は経費が増えただけでしかない。

 医療分野のデジタル化構想は、ボロボロの「マイナ保険証」に続いて、オンライン請求や電子処方箋が進められ、クラウド型の電子カルテの標準化も議論されていることに戦慄する。患者・医療機関双方が喜べるデジタル化とは程遠い現状をみるにつけ、行政として誠実な態度で保険証廃止を凍結し、「マイナ保険証」の制度設計から見直すべきと考える。