物価高騰と賃金引き上げに対応できる診療報酬大幅引き上げを、患者負担軽減とともに
医療・介護の改定が重なる2024年診療報酬改定は、医療DX推進の過程におけるベンダーや医療機関の負担軽減を図るとして、薬価改定を4月、診療報酬を6月改定とすることが了承された。「次期診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬の同時改定においては、物価高騰・賃金上昇、経営の状況、支え手が減少する中での人材確保の必要性、患者・利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ、患者・利用者が必要なサービスが受けられるよう、必要な対応を行う」とした骨太方針2023の下で、医療機関の実態を汲んだ改定となるよう、広島県保険医協会でも会員署名の集約や国会議員要請などに取り組んでいる。
10月にスタートした医師・歯科医師署名には、これまでにない厳しい意見が寄せられている。15歳から64歳の働き手の減少が続くなか、医療機関でも人材確保に困難が生じている。とりわけ中山間地域や中小規模病院では、人材不足による救急の受け入れ停止や診療科の閉鎖など、地域医療に影響を及ぼす事態となってきている。保団連が2023年春に実施した「コロナ禍4年目の診療現場の実態・意識調査」では、経営収支が「苦しい」「非常に苦しい」と答えた医療機関が、医科で3割超、歯科では4割を超えている。「感染対策の経費増」「経費全般の増加」、感染症下で拡がった受診控えから「患者が戻らない」との理由に続き、「スタッフの確保困難」をあげる医療機関は、医科・歯科ともに12.4%である。医療や福祉分野の専門職不足に乗じて、高額な仲介料を請求する斡旋業もみられる。貴重な診療報酬が仲介業者に吸い取られるような事態が放置されていいはずはない。物価高を背景に、政府は最低賃金引き上げを目標に掲げ、2024年春闘は5%引き上げ要求ともいうが、医療従事者の賃金アップは、診療報酬の引き上げがなければ実現できない。人材が確保できなければ、地域の医療は縮小せざるを得なくなる。
会員からは、診療報酬で補填されているはずの消費税相当分は意味をなしておらず、患者負担に転嫁できない医療の実態を反映した仕組みにすべきとの声も寄せられている。物価や燃料費の高騰は食材料費への影響も大きい。オンライン化に伴う通信費、セキュリティ対策や保守に係るランニングコストも増加した。改定毎にカルテ記載や研修履修など要件化されるものが増えるが、時間や手間がコストと見なされているとは思えず、事務量の増加も診療を圧迫している。
財務省は、1受診あたりの医療費が近年の物価上昇率を超える4.3%だとし、新型コロナ補助金等の積み上がりを賃上げ原資とすることなどを示している。しかしパンデミックの下で厳重な感染防止策を講じながら、あるいは休診せざるをえない状況を抱えながら、地域医療を継続してきた病院・診療所は、続くマイナス改定でギリギリ(あるいは赤字経営)の状態にあった。一人あたりの医療費はコロナ特例分を除けば2.4%であり、物価上昇率を下回っている。コロナ特例が廃止され、厳重な感染防止対策は継続せざるを得ないが受診控えは回復しない。これが実態であり、細かい加算の付け替えではなく、基本診療料という根幹の評価を引き上げるべきである。
最低賃金引き上げは、患者の経済的不安を解消するとともに、購買力を高め経済の活性化を図ることにもつながるものと思われる。厳しい医療の実態を汲むならば、地域医療の維持・継続のために、物価高騰等によるコスト増と、人材確保に対応できる賃金引き上げを重視した診療報酬改定でなくてはならない。広島県保険医協会は、患者負担の軽減を図るとともに、診療報酬大幅引き上げを強く要望する。