「医療崩壊」を食い止めるために ―診療報酬引き上げなど、医療費抑制策の抜本的な見直しが急務―

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医療機関が新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)への対応に追われる中、2020年度診療報酬改定は予定を変えることなく4月1日から実施された。

今次改定は、本体部分が0.55%(うち、救急病院の勤務医の働き方改革への対応分が+0.08%)引き上げとなるも、薬価等を1.01%引き下げ、全体で0.46%のマイナス改定とされた。社会保障費の自然増分を圧縮するという政府方針のもと、4回連続の実質マイナス改定である。

主な改定内容は、医科では、初・再診料は据え置き、地域包括診療加算の要件緩和、施設基準を強化し急性期病床の削減を進めるなど、かかりつけ医機能の強化が図られている。またオンライン診療料の算定対象患者の拡大と事前の対面診療の期間等の要件を緩和する一方で、算定可能な医学管理料の点数を低く設定するなど、医師の診療技術を安上がりにしようとする意図が透けて見える。厚労省は、新型コロナの臨時的対応として、初診から電話や情報通信機器を用いた診察・処方を可能としたが、この災禍をオンライン診療への浸透の材料に使うことは容認できない。歯科では、院内感染防止対策を名目にした初・再診料の引き上げ、歯周病重症化予防の評価など、長期維持管理へ誘導する印象が強い。なお、歯科衛生士や歯科技工士の技術や労働が適正に評価されておらず、歯科衛生士の雇用確保や歯科技工料の適正な支払いも困難なままである。さらに歯科医院経営を圧迫し続けている金パラの「逆ザヤ」も今次改定では解消されない。

新点数による運用は、算定要件の確認や施設基準の届出、保険請求に必要な資料の整備などが大きく変わる場合が多々あり、医療機関の負担は膨大なものとなる。それに未知の感染症対応が加わることになったのである。厚労省は早々に集団指導の中止を決め、診療報酬改定の周知方法を変更、改定を強行。その後も膨大な疑義解釈や訂正通知、また、新型コロナの臨時的取扱い通知をたて続けに発出するのみで、周知徹底どころか「医療現場に丸投げ」の状況である。5月になってもなお医療現場の混乱は収まっておらず、「不急」の改定を強行した政府・厚労省の姿勢にあらためて抗議の意を表明する。

4月17日、安倍首相は、政府が新型コロナの増加に対応する緊急事態宣言の対象地域を全都道府県に拡大したことを説明した。医療崩壊を防ぐことにも言及し、「医療現場からは悲鳴があがっています。守れる命も守れなくなる感染リスクと背中合わせの中で、現場の医師や看護師の皆さんの肉体的な、精神的な負担は限界に達しています」と述べ、医療現場を守る姿勢を前面に出して呼びかけた。しかし医療機関は政府の長年の医療費抑制策によって疲弊し、医療の現場は余裕のない状態まで追い詰められていた。そこに何一つ言及せず反省もなく、発せられる「医療崩壊」を防ぐという言葉には違和感を抱かざるをえない。

「医療崩壊」を本気で食い止めるには医療費抑制策の抜本的な見直しが急務であり、これまでに協会が要請している新型コロナ対策に加えて、次の施策を速やかに実行するよう強く求める。①安心・安全で必要な医療を提供するために医科・歯科診療報酬を10%以上引き上げること、②患者の窓口一部負担金を大幅に軽減すること、③公立・公的病院の再編統合計画を中止すること、④75歳以上の窓口負担の引き上げなど患者負担増・給付削減計画を中止すること。