「地域医療構想」も「医療費適正化計画」も、抜本的な見直しが必要~感染症に対応できる医療体制を~

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2014年に成立した「医療介護総合確保推進法」によって制度化された「地域医療構想」は、将来人口推計をもとに、団塊の世代が75歳を迎える2025年に必要となる病床数を推計し、効率的な医療提供体制を実現することを目指し都道府県が策定することとされた。広島県でも、構想区域ごとの調整会議を経た「地域医療構想」をもとに、第7次広島県保健医療計画(2018年3月)を策定し、県内7医療圏に基準病床数が設定されている。

「医療介護総合確保推進法」は、2012年の3党合意である「持続可能な社会保障制度の構築」を名目とした「社会保障・税一体改革法」「社会保障制度改革推進法」が発端となっている。厚生労働省は、医療・介護の費用の将来推計(2025年)を約70兆円と定め、そこに向けて抑え込む1つの方策として「地域医療構想」を用いたのである。

 都道府県は「医療費適正化計画」策定が義務付けられ、医療給付費を管理し、抑制計画の実行具合を競い合う。2014年度からは、一般病床・療養病床を有する病院及び有床診療所は、病床機能報告制度による報告を行うこととされ、厚生労働省が示すデータと推計方法で都道府県が需要をはじき出し、この計画のもとで地域の病床数を調整していくというのである。

 在院日数の短縮、患者に手厚い7対1看護を高度急性期に絞り込む、行政側はあの手この手で医療機関に病床の転換や病床削減を迫っている。しかし広島県は、回復期病床が不足するため病床転換を推進するとしながらも、医療圏を超えた連携、急性期・回復期・慢性期には患者住所地を基本としていくことを併記し、数合わせに徹する考えには立っていないようにみえる。住民の立場にたてば、身近にある病院で受け入れられないことは地域の衰退につながりかねない問題であり、医療機関にすれば、病床転換に付随してくる基準や医師・スタッフ確保の問題など、容易に転換が図れるものではない。

 こうした地域の実情によって「地域医療構想」が行き詰った故に、再編する院名が公表されたという見方が大半である。全国知事会は地域医療構想の趣旨を明確にすることや丁寧な説明、国による財政支援を求める意見を出し、市長会・町村会らも並んでいる。国側は、3月中旬の「地域医療構想に関するワーキンググループ」資料で、「地域医療構想調整会議における協議の結果よりも、首長の意向が優先される恐れがあるとの指摘がある」と記載。協議の難航が予想される。

 新型コロナ禍で、病床削減に多額の予算を計上していたとも批判された。厚労省は、再検証期限を修正し、ひとまず先延ばしを図ったかに見える。しかしそれでよいのだろうか。新型コロナウイルスの拡がりは、医療材料の不足、感染症に対応する病床や医療スタッフの不足など、様々な問題を浮き彫りにした。重症者を救命する病院の集中治療室は、43都道府県で患者数のピークに対応できないと推計されている。新型コロナの第二波、第三波も予測されるが、短期間で対応が準備できるほどの余裕があるのだろうか。誘導的な診療報酬や施設基準に翻弄され、消費税増税では実効性のある「損税」対策も講じられず医業経営を圧迫している。病院・有床診療所も、地域も、平時から、医師やスタッフの確保に困難を抱えながら、何とか凌いでいる状況にある。

医療費抑制の方策として出発した「地域医療構想」も、地域医療に余力を持たせない「医療費適正化計画」も、新型コロナに見舞われた今、根本から見直すことが必要ではないか。有事でも住民の命と健康を守るセーフティーネットとして、地域医療を機能させる計画とすべきである。