ウクライナ危機便乗「改憲」は許さない~防衛費増額ではなく、社会保障拡充にこそ財源を

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ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から4か月が経過した。未だ解決の兆しは見えないなか、民間人750万人以上が諸外国へ避難し、2700万人以上が国内で砲撃に怯える日々を送っている。自らの侵略行為を正当化し、核兵器の実践使用も辞さないとの構えを示すプーチン大統領に、国際平和分野の世界的シンクタンクであるストックホルム国際平和研究所が、世界で核兵器が使われるリスクが「冷戦以降、最も高いとみられる」と指摘するなど、多くの国、団体から非難の声があがっている。

社会不安の高まりに乗じて、日本では9条「改憲」の動きが本格化している。先の国会では、憲法審査会が予算審議期間中にほぼ毎週という異例のペースで開催され、閉会中審査の継続も決定した。77年前、原爆をはじめ多くの戦争での犠牲を反省し、憲法には、国際紛争の解決の手段として武力を用いることを放棄すると記された。しかし自民党の憲法「改正」草案では、憲法前文から戦争への反省と不戦の決意が削除され、9条の2に自衛隊を明記することとあわせて、基本的人権を永久不可侵の権利として保障する第九十七条が全文削除となっている。ウクライナ危機に便乗し、「侵略の脅威」で不安を煽る背景には、憲法「改正」を成し遂げ、戦争できる国へ変えていこうという「改憲」勢力の思惑が透ける。

安倍晋三元首相は核抑止力による安全保障環境の強化を唱え、アメリカの核兵器を日本に配備し共同運用する「核共有」について論議すべきとの持論を展開する。岸田文雄首相は非核三原則の堅持を表明し「原子力の平和利用を規定している原子力基本法をはじめとする法体系から考えても認めることは難しい」と核共有論については否定している。しかし5月の日米首脳会談では、両国の抑止力と対処力を強化するとして、バイデン大統領に「防衛費の相当な増額を確保する」意向を示し、日米安保条約の下での対米追従姿勢は引き継がれている。6月7日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2022」、いわゆる「骨太の方針」には、NATO加盟国が国防予算対GDP比2%以上に向けた防衛力強化を掲げていることを例示し、防衛力を5年以内に抜本的に強化すると明記された。敵の射程圏外から攻撃できる長射程の巡航ミサイルなどを増強するとともに、人工知能や無人機など先端技術の研究開発、防衛装備品の輸出や移転に関する制度の見直し、弾薬の確保や装備品の維持整備にも重点的に取り組むとしている。

日本の防衛費は、1976年に三木内閣がGDP比1%を目安とする方針を閣議決定して以降、歴代政権はそれを踏襲し、概ねその割合に添った予算編成としてきた。2022年度の防衛費の当初予算は5兆4千億円(GDP比0.96%)で、これを2%に引き上げるためには新たに5兆円以上が必要となる。国債発行で賄うとの声もあるが、将来に大きなツケを残すだけで、いずれにせよ国民の負担は免れられない。新自由主義政策によって雇用は破壊され、新型コロナの感染拡大では社会保障の脆弱さが露呈した。アベノミクスという失策とウクライナ危機による物価上昇も事業や家計を圧迫する。防衛費が増額できるのならば、一刻も早く救済・再建策を講じ、消費税減税を行うべきではないか。

恒久平和主義を投げ捨て、究極の人権侵害である戦争を繰り返す道に進む9条「改憲」などありえない。深刻な格差と貧困がひろがる現状にあって、防衛費増額と「改憲」に前のめりの姿勢に強く抗議し、社会保障の拡充にこそ財源を充てるよう強く求める。