コロナ禍の今、命の砦である公費負担医療制度の充実と、命を守る福祉行政を求める

pdfのダウンロードはこちら

日本国憲法第25条の生存権に基づく社会保障の一環として設けられている公費負担医療制度は、戦後の混乱期、社会的な必要性、緊急性から、1946年生活保護法、1947年児童福祉法、1949年身体障害者福祉法と、複数の法律が国民皆保険制度(1961年)に先駆けて制定され公共の福祉の増進が図られてきた。1980年代に入り経済成長が鈍化する中、高齢者人口の増加、疾病構造の変化等により増加した医療費を抑制しようと、社会保障予算の削減と公費負担医療の改革が進められた。

1995年の結核予防法と精神保健福祉法の改正では、結核・精神医療の費用負担の仕組みが、公費優先から医療保険優先に改められたことにより、本来、国が負担すべき医療費の国庫負担が削減され、医療保険からの支出と患者負担が増すこととなった。また障害者医療では、更生医療、育成医療、精神通院医療の3制度で分割運営されていた医療費の助成・福祉サービスが統合され、2006年4月、障害者自立支援法が施行された。身体、知的、精神という障害の種別ごとに行われていた公費負担医療を一本化した新法は、助成範囲の縮小と、一部負担増を招き、対象者団体から再改定要求の声が続くこととなった。生活保護法については、2014年に続き2018年にも生活扶助基準が引き下げとなり、この時、後発医薬品の使用原則化や健康管理支援事業(国が分析した被保護者の医療データをもとに福祉事務所が受診勧奨を行う)の創設が盛り込まれた。

公費負担医療制度は、小児慢性特定疾病医療支援事業や自立支援医療、難病法に係る特定医療費助成制度など国が行っているものと、こども医療費助成制度や障害児・者に対する医療費助成制度など自治体が独自に行っている事業とがある。これらは制度ごとに対象疾患、所得制限や患者の一部負担金が異なるなど複雑多岐にわたっており、複数の公費負担医療制度の適用を受けている患者については、医療機関での請求実務も煩雑を極める。

 そもそも公費負担医療制度は、患者本人や家族が申請を行わなければ利用することができない申請主義をとっており、利用者が物理的にも能力的にも選択と申請の手続きが可能な状況にあることを前提としている。強制力を持つ隔離又は強制収容では自動的に制度の適用を受けるものの、制度へのアクセスが困難な人たちの問題が解決されているとは言い難い。

 患者の自己負担増や国保の保険料引き上げは、経済格差から受診を見合わせる受診抑制を拡大し、コロナ禍では自宅療養を促す通知が発出されるなど、国民の受療権が揺らぐ事態が生じているので、公費負担医療制度が命綱の役割を担っていると言っても過言ではない。医療機関には、複雑な制度の理解を少しでも深めてもらいたいと、このほど全国保険医団体連合会社保担当事務局を講師に研修会を開催した。必要な患者に、適切な制度利用が行き渡る一助となればと考える。また保団連・保険医協会では、公費負担医療を制度ごとに解説した「公費負担医療等の手引」を発行し、医療機関の請求実務にも役立ててもらっている。患者・国民に向けては、税や保険料の負担軽減制度を分かりやすくまとめた冊子「知ってトクする!医療・介護・税金の負担軽減策」の配布を行っている。

新型コロナの感染拡大によって、貧困や格差がさらに深刻さを増し、社会的に弱い立場の人たちの生存権が脅かされている。困難な状況にある今こそ、公助を充実させ、国民の受療権を守ることを何よりも優先させなくてはならない。命の砦である公費負担医療制度の充実と、必要な人に医療が届く福祉行政を求める。