ジェンダーレス社会に適応した意識と選択の視点をもとう

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 世界経済フォーラムが2021年3月に公表した「The Global Gender Gap Report 2021」をみると、日本のジェンダーギャップ指数は156か国中120位となっている。ジェンダーギャップ指数とは、「経済」「政治」「教育」「健康」の4分野について、完全不平等を0、完全平等を1としてスコア化し、男女格差の状態をみる物差しである。日本のスコアをみると、識字率や初等教育就学率等で測る「教育」、出生時の男女割合や健康寿命等で測る「健康」といった分野は1に近いスコアだが、「政治」は0.061と、国会議員や閣僚の男女比がスコアを大きく下げている。「経済」は0.604で、賃金や管理職における男女平等が進んでおらず、専門職・技術職における男女平等は世界平均を下回っている。

 ジェンダー平等は、「SDGs(持続可能な開発目標)」の1つとなっており、世界でも注目されてきている。国内でも「ジェンダー」「多様性(ダイバーシティ)」という言葉を耳にすることが増え、国政政党はこぞって公約に取りあげる。

 1986年、 企業が採用や昇進、退職などの労働分野で性別を理由に差別することを禁止する「男女雇用機会均等法」が施行された。1999年、男女を社会の対等な構成員として、あらゆる分野で活動する機会の確保を謳う「男女共同参画社会基本法」が施行、2019年には「改正女性活躍推進法」が施行された。わが国は、国連の「女性差別撤廃条約」(79年採択)を批准(85年)するが、昨秋の国会では、女子差別撤廃委員会からの勧告に関する見解文書を2年以上にわたり放置していたことが明らかになっている。法律が実を伴っていないことの証左ではないか。

 条約の批准を諮った当時の国会で、安倍晋太郎外相は、21世紀に向かって、女性の基本的人権や人間の威厳に対する理解を掲げることについて、「この条約を守ることが日本の義務になる」「まだ日本に残っている問題を解決し、条約の趣旨が完全に履行されるよう努力していかなければならない」と述べた。そして、国民的な理解の形成に「腰を据えて」取り組む必要性を語っている。しかし、男女共同参画基本計画案の策定に携わった委員からは、国際基準のジェンダー平等が「いつも与党に阻まれる」との声も出る。国連から繰り返し勧告を受ける夫婦同姓制度についても、この国の最高裁は、民法の規定を「合憲」と判断した。法学上の通説で、法律よりも上位規範とされる条約が、司法の場で機能していないともいわれる。

 医療分野では、男性就業者が増加しているとはいえ、多くの職種で女性が大半を占めている。一方、医師・歯科医師をみると、女性の割合は約2割、医学部入学者では3割を超え、今後も増加していくことが予想される。保団連女性部が2015年に行った開業女性医師・女性歯科医師への調査では、出産・子育て環境の支援制度が不足し、家族を含めた社会的な理解が不十分であることが把握されている。女性医師の労働環境の改善、開業医も含めた支援システムの構築は、女性医師・女性歯科医師のキャリア形成を支えるだけでなく、男性医師・男性歯科医師の働き方の変革につながるのではないか。

 世界の潮流は、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを重視し取り組む企業の評価を高める方向で流れ始めている。個人の意識を変えることは容易でないように見えるが、国際水準のジェンダー感覚を持ち、経済でも外交でも、世界に伍するリーダーを求めること、選択することは難しいことではない。為政者の言動にジェンダーという物差しをあててみることも、世界に追いつく一歩かもしれない。