地域医療を担う医師・歯科医師に公的保障の拡充を~会員相互の助け合い共済制度の活用を~

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 国の年金支給額が4月から0.4%引き下げとなった。2年連続の引き下げである。現在の支給の仕組みでは、賃金より物価の上昇が大きい場合でも年金額は連動せず、物価上昇より低い上昇率となる。翌年度に繰り越されたマクロ経済スライド分(マイナス0.3%)が、2023年度以降の改定に影響するため、賃金が上昇したとしても年金が増えることは見通せない。

 公的年金は「保険料収入」と「国庫負担」と「年金積立金」で賄われ、厚生年金財源の約1割を担う「年金積立金」は、2001年からGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)によって運用されている。今回、GPIFがロシア企業の株式を保有していることが取り沙汰されているが、年金財政への影響はもとより、世界規模で拡がるロシアへの経済制裁など外交問題のリスクもはらむ。

 国税庁が行った「民間給与実態統計調査」で、2020年の平均給与は433万円、2年連続で減少となった。厚労省の「2019年国民生活基礎調査」では、所得300万円未満の世帯が最も多く、平均所得金額(552.3万円)以下の割合が61.1%と過半数を超えることが把握されている。政府の経済財政諮問会議では、1994年と2019年の比較で、世帯の所得の中央値が、35~44歳の世代で104万円減少、45~54歳の世代では184万円減少していると報告されている。身の回りでは、銀行手数料の改定(値上げや新設)が続き、ガソリン代は高止まり、ロシアのウクライナ侵攻の影響で、今後は小麦など食料品の値上げが続くといわれる。社会保険料負担は増加するばかりで、収入は減少し、誰もが将来に不安を抱えているのが今の日本の実態ではないか。

 保険医協会・保団連では、医療の専門性・公益性の高さから、医師・歯科医師の公的保障の拡充を求める一方で、それを補う制度を実施してきた。1968年に発足した保険医年金は加入者5万2千人、積立金総額1兆3千億円超という日本有数の私的年金に成長し、遅々として改善されない公的年金制度を補完し、会員のライフステージで役割を発揮している。この度、長引く経済不況の煽りを受けて予定利率を下げることとなったが、制度発足以来、個々の積立額を削減したことはなく、自在性や安定性の魅力が縮減するものではないと考えている。将来への備えとして、開業医だけでなく、勤務医の方々からも注目される制度である。

 地域医療を担う開業医には、突然のケガや疾病で倒れたときの備えとして、保険医休業保障共済保険(全国保険医休業保障共済会)が頼りになる。この度、全国からの要求に応え、「免責日数の短縮」という大きな制度改善が実現した。これは既に加入している先生方にも適用される(2022年8月以降)。勤務医も加入できる制度であり、充実した給付日数や給付金、加入時から上がらない拠出金(保険料)など、制度創設時からの良さも維持している。自主共済規制が強まった当時は、全国の保険医協会が団結してこの制度を守り、この度の改定につながったことは誇るべきものだといえる。そして、シンプルな保障を割安な保険料で得られるグループ保険と、保険医年金・保険医休業保障共済保険を組み合わせれば、経費を抑えて安心できる保障を備えることができる。

 負担ばかりが増えて脆弱化した社会保障制度を背景に、家計貯蓄率が急上昇しているという(2019年度3.7%→2020年度13.1%・内閣府国民経済計算)。年金受給年齢は引き上げられ、若いうちから備えるか働き続けるかの選択を求められる今日、優位な制度を活用しつつ、つきまとう「自己責任」と決別できるよう公的保障の充実を求めよう。