ハラスメントは人権侵害 ―保険医協会の発展のためにハラスメント行為を防止する

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今年5月、職場でのハラスメント行為の防止を事業者に義務付ける関連法が成立した。労働局へのパワーハラスメント(以下・パワハラ)相談が7年連続最多を更新、件数にして8万件超(2017年度・「いじめ・嫌がらせ」の相談件数)となっていること、セクシャルハラスメント(以下・セクハラ)についても、男女雇用機会均等法に関する相談の約半数を占めていることが背景にある。

パワハラとは、一般的に、職権などの優位にある権限を背景に、本来の業務範囲を超え、継続的に、相手の人格と尊厳を侵害する言動を行い、就労環境を悪化させる、あるいは雇用不安を与えることと言われている。前提となる優位性は、雇用・被雇用や上司と部下という地位に限定されるものではなく、回数が少なければパワハラにならないというものでもない。

新しい法律では、防止に向けた明確な意思表示、啓発や相談体制の整備、発生時の迅速且つ厳正な対処、相談者への不利益な取り扱いの禁止など、事業主が責任を持って防止に取り組むよう求めている。表面化しにくかったハラスメント行為を、「許されない行為」と社会が認識し、現場の実践により根絶していこうというものであり、世界はすでにこの流れの中にある。

厚労省はパワハラの例として、身体的・精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大あるいは過小な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)などを挙げている。これらの行為が名誉棄損罪や侮辱罪にあたる場合もある。今回の法改正では、パワハラの労使紛争において、労働局がより強く介入できるようにもなった。

パワハラや性的嫌がらせと言われるセクハラは、個人の尊厳を傷つけるだけでなく、事業活動にも影響を与える。本人だけでなく、周囲の者も含めた労働意欲の低下や離職は生産性の低下を招く。労災認定や民事訴訟等が社会的評価に与えるダメージも大きい。

我々の保険医協会について考えてみると、事務局は、保険医運動と国民の医療を守ることを自らの生きがいとして位置づけ、執行機関の業務を補佐し、実務的に保障する役割を担っている。雇用者と被雇用者の関係ではなく、役員と役割は異なるが、目的と価値観を共有する、「車の両輪」のような存在である。また、保団連・保険医協会事務局の男女比は6:4と半数に近く、性別の区別なく業務に従事している。パワハラやセクハラを排除した環境で、役員と事務局、男性と女性という異なる存在が、お互いを尊重し合ってこそ、充実した活動が行えるのである。

保険医協会の目的、総会で決定した方針は、理事会等の会議で討議し具体化していく。この討議の場で威圧的、攻撃的な言動が行われれば、闊達な意見交換を損ない、討議を萎縮させてしまう。その場にいる者のモチベーションを低下させ、活動の停滞や後退を引き起こすだけでなく、意欲が削がれた役員や事務局が離脱していくことにもなりかねない。

法施行を機に、広島県保険医協会理事会では、ハラスメントにつながる言動を許さないという意志を確認した。これからも民主的な組織運営を重視するなかで、役員と事務局が団結し、保険医協会の発展と社会保障拡充に向けた諸活動に取り組んでいく。

※『戦後開業医運動の歴史』全国保険医団体連合会編、2018年6月30日・役員情勢学習会の講演より。