医師の過労死防止のための働き方改革を急ぐべき

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日本の診療報酬は、医療機関が実際に診療した項目と数量に応じて報酬が支払われる「出来高払い方式」を基本としているため、治療費の未収が発生しにくいというメリットがある。その反面、実施する医療サービスが増えるほど、支払いが増える仕組みであるという批判的な指摘もある。しかし現在の診療報酬単価が低すぎるため、医業経営を継続するために数をこなさなくてはならない点も否定できず、患者のための最善の医療という点でジレンマを抱える医師も多いのではないだろうか。社会保障費の自然増圧縮などではなく、薬剤費や医療機器の費用が医療費増大を招いている点を見直し、医師の初再診料の引上げや技術料を適正に評価することが不可欠である。

医療費削減と低診療報酬、改定の度に増える事務量など、医師の働き方は厳しくなる一方である。勤務医の長時間労働の問題では、医師法第19条の「応召の義務」が枷となっているという説があるが、これは、医師の公に対して負担する義務であり、私法上患者に対する義務ではないと解されている。医師法の定めによって、勤務医が過労死する事態を招いているのであれば、医師の人権を守り、真に憲法25条を実現すべく、憲法に則ったものに見直されることも必要ではないか。

2017年より厚生労働省は「医師の働き方改革に関する検討会」を設置、医師の労働時間の議論がようやくスタートしている。7回の会議を経た2月27日、「中間的な論点整理」と「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」が公表された。それによると、医師の負担軽減のために、「タスク・シフティング」として、初療時の予診、検査手順や入院の説明、薬の説明や服薬の指導、静脈採血や注射、ラインの確保、尿道カテーテルの確保、診断書等の代行入力、患者の移動などの業務を例として掲げ、他職種への移管を推進することが示されている。また「女性医師等に対する支援」として、キャリア形成の継続性を阻害しない柔軟な働き方のためのきめ細やかな対策が挙げられている。これ以外にも、複数主治医制の導入や勤務時間の厳密な管理、完全休日の設定など、医療機関に応じた取り組みの必要性を検討することとしている。医師個人の責任を分散し、事務労働などの負担を軽減する仕組みづくりが急がれなくてはならない。現代は、以前に比べて患者の要求が多様化し強くなっていることも医師の疲弊の一因ではないだろうか。主治医の休暇を受け入れる、患者の意識改革も組み込んでもらいたい。急速な制度変更は地域医療に影響するとの危惧があるかもしれないが、現状を変えるための制度をつくらなくては何も変わらない。

OECD調査によると、日本の臨床医数はOECD加盟国中26位である。人口1000人あたり5.0人のオーストリア(1位)に対して2.4人と1/2以下である。また医師1人当たりの入院担当患者(=担当病床数)は、米国1.1人に対し日本5.5人、外来患者(=受診回数)では、医師1人当たり米国1,538人のところ、日本は5,333人と推計されている。長期的には医師数の増員対策も必要である。

人工知能は急速に進歩しており、画像診断や病理診断など、医師の負担を軽減する可能性も広がっている。当面の過労死防止策を早急に講じ、これらの活用による負担軽減策も検討していきながら、根本的な医師の養成数増にも取り組んでもらいた