厳しい介護現場の改善へ、介護報酬の大幅な引き上げを求める

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2021年4月実施の介護報酬改定から1か月が経過した。今次改定においても、改定直前にようやく告示・通知が出されることとなったため、介護サービス内容の変更点を利用者に説明することが困難になるなど、介護現場の混乱は続いている。当会にも介護報酬の算定や請求に関する問い合わせが増えた。介護現場と利用者に多大な負担をかけないよう、厚労省は、改定の周知期間を十分確保するようあらためて求める。

さて今次改定は、厚労省発表で「0.7%引き上げ」とされるも、そのうち0.05%は、新型コロナウイルス対応として本年9月末までの時限措置としての引き上げとなっている。このような引き上げ幅では、新型コロナウイルス感染症対策の強化はもちろん、介護職員の処遇改善や求められる介護サービスの質の向上に全く不十分である。そのうえで、医療機関に関する部分の報酬引き下げが目立つことを指摘したい。

医師・歯科医師が請求する居宅療養管理指導費は、「単一建物居住者の数が月10人以上」の場合で、報酬が一部引き下げられた。居宅療養管理指導費は、「居宅療養上の指導や他の事業所との連携」を評価したものであり、サービスの提供状況や移動・滞在時間の効率化を理由に単一建物居住者数で報酬を減額するとした仕組みそのものに合理性はない。

介護療養施設サービス費については、認知症疾患型は引き上げられたが、病院型は1日につき1人45単位~117単位も引き下げられ、60床では年間2000万円以上もの減収となる。また、診療所型でも1日につき1人43単位~85単位もの大幅引き下げとされた。介護療養型医療施設を2023年度末までに廃止し、介護医療院への転換を強引に進めるための政策的改定であり、転換できない施設は経営が立ち行かなくなる恐れがある。しかも、介護医療院への移行に関する計画を届け出ることができない場合は、さらに10%もの減算となる。

感染症や災害発生時に利用者が必要とするサービスが安定・継続的に提供する体制を構築するとして、介護事業所に感染症対策の指針整備や委員会の開催、事業継続計画の策定などを義務付け。また介護関連データベースへの情報提出を求める、など、介護事業所や介護職員にとって新たな負担を課す内容も多く見受けられる。

 介護報酬は、社会保障として国民が受ける介護の質と量を規定するものである。しかし政府は、2000年の介護保険制度開始から、6回の介護報酬改定のうち4回(実質含む)をマイナス改定としてきた。なかでも安倍前政権は2015年度改定で過去最大の実質4.48%引き下げを強行した。以降、介護事業所の倒産は毎年100件を超えて高止まりしている。今次改定前の2020年10月30日、厚労省は第190回介護給付費分科会を開き、介護事業所の経営実態やコロナ禍の影響に関する調査結果を報告した。それによれば、2019年度の介護事業所の平均収支差率(利益率)が過去最低の2.4%を記録したこと、新型コロナウイルス感染拡大前より収支が「悪くなった」との回答が、2020年5月時点で47.5%、10月時点で32.7%であったことなどが明らかになっている。

 利用者に必要なサービスを提供しようと懸命に努力を続ける介護事業所の努力に依存するのではなく、介護事業所の経営改善・安定につながる診療報酬としなければ、介護現場で働く職員の雇用と労働環境の厳しい状況は変わらない。高齢化が進行するなかで、介護を担う人材確保は重要である。不合理な改定を見直し、介護現場の改善に資する介護報酬の大幅引き上げを求める。