新型コロナ下での感染防止に耐えうる診療報酬へ ~歯科医療費の総枠拡大、不合理是正と適正な診療報酬への改定を求める~

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コロナ禍で歯科医療機関の経営が深刻化している。歯科の2020年4月から翌年1月までのレセプトの累計は、対前年同期で459億円減少、患者数(件数)では1743万人の減少となっている。歯科では、新型コロナ以前から、患者毎のミラー、エキスプローラ―など医療器具の交換、チェアーの消毒など、徹底した院内感染防止対策を行ってきた。

2018年診療報酬改定で初・再診料に院内感染防止対策の施設基準(歯科点数表の初診料の注1に規定する施設基準)を導入し、届出がない場合、初・再診料が21点低くなる仕組みが設けられた。2007年7月18日の中医協診療報酬基本問題小委員会で示された「平成18年度医療安全に関するコスト調査業務」によると、歯科における院内感染防止対策に必要なコストは、医科有床診療所並みの268円(外来患者1人1回あたり)、医科無床診療所とは3倍もの開きがあった。歯科で院内感染防止対策が著しく低く評価されているのが現状である。歯科治療では、歯科医師、歯科衛生士が患者の口腔内に直接触れるため、患者毎に医療器具を交換するなど、すべての患者に防止策を講じている。そもそも徹底して行っている感染防止対策について、届出の有無で評価する仕組みを持ち込むことは不合理である。「歯初診」は廃止とし、医科歯科間にある格差を解消しつつ、初・再診料を引き上げて評価すべきである。コロナ禍でグローブの高騰が止まらない。歯科のグローブは、患者毎の交換が必要であり、その数は一般の歯科医療機関でもその必要数は数百枚を下らない。感染症が蔓延するなか、患者の命を守るためにも、歯科医療機関の持ち出しに頼るのではなく、基本診療料で賄えるよう引き上げを行うことを求める。

診療行為に対する技術料の多くも低く評価されている。2016年に歯学系学会社会保険委員会連合は、歯科治療における「時間」「技術」「モノ」を適正に評価するため、科学的根拠に基づいたデータをもとに作成した「歯保連試案」を公表した。抜髄を例にあげると、浸潤麻酔、除去(簡単なもの)、ラバーダム防湿、抜髄の一連にかかる時間(24分)、医療材料費(4047円)、歯科医師、歯科衛生士の人件費(4030円)を算出し、合計8077円と試算している。現行の保険点数230点と比較して3倍以上の試算となっている。厚労省は、根拠の乏しい低技術料を見直し、医療現場が納得できるものとすべきである。

2020年改定では歯周病の重症化予防を目的に、歯周病重症化予防治療(「P重防」1~9歯150点)が新設された。従来、歯周病の継続管理は、中等度から重度の治療過程を対象に歯周病安定期治療(「SPT」1~9歯200点)を設けていたが、P重防は歯肉炎を含んだ軽度の患者を継続管理の対象としている。重症化予防という点が新たに評価されたことは歓迎できる。しかし、「P重防」も「SPT」も患者に行う処置は同じであるため、保険点数に差があることに合理的理由は見つからない。

 金パラ「逆ザヤ」の問題では、昨年7月に金パラ市場価格の乱高下に対応するため、新たな告示価格改定の仕組み「随時改定Ⅱ」が実施された。しかし、依然として市場価格の参照期間と改定実施までにタイムラグがあるため、即時に「逆ザヤ」を解消する仕組みとしなければいけない。

診療報酬は、歯科医療の質と安全を担保し、地域医療を支えるための原資である。受診控えで歯科疾患が重症化した事例も数多く報告されている。コロナ禍であっても国民が安心して歯科医療を受けられるよう、歯科医療費の総枠拡大を行い、不合理是正を行うとともに、適正な診療報酬への改定を求める。