口腔の健康は全身の健康 歯科診療報酬引き上げ、歯科医療費の総枠拡大を

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11月1日、財政制度審議会で財務省は、国民医療費の伸びを人口増減や高齢化の要因による増加の範囲に収めるとして、2020年度診療報酬改定では2%半ば以上のマイナス改定にする必要があると主張した。対物業務から人件費部分にシフトする考えを示し、全体でもマイナス改定とすることを提言している。

歯科医療費の総枠は長年低く抑えられている。1992年の国民医療費約23.5兆円のうち歯科医療費は約2.3兆円。2017年の国民医療費は1.8倍に伸びて約42.2兆円、そのうち歯科医療費は約2.9兆円と1.3倍にも満たない。本来であれば4兆円超となるはずのものが、7割程度の伸びに抑えられているのである。

 歯科では、インレー、クラウン、義歯など歯冠修復物、欠損補綴物で使用する材料である「金銀パラジウム合金」(金パラ)の長期的な価格高騰が、医療機関の経営を圧迫している。歯科医療機関は、金パラを業者から市場価格で購入し、歯冠修復物、欠損補綴物の装着の際に告示価格で請求する。そのため、市場価格の高騰により購入価格が告示価格を上回ると、不採算(逆ザヤ)となり、その差額を歯科医療機関が持ち出さなければならない。告示価格の改定は、2年に1回の診療報酬改定時に実施される「基準材料価格改定」と、次期改定までの間で6カ月に1回、金パラの市場価格の変動率が±5%以上になった場合に改定される「随時改定」がある。「基準材料価格改定」では、金パラの市場価格が調査される。しかし、「随時改定」では、金、銀、パラジウム各素材の市場価格からの推計が用いられ、実際の金パラの市場価格との乖離が生じている。また、市場価格の調査と告示価格決定のプロセスも不透明なものとなっている。逆ザヤは、過去10年間で約250億円にも上っており、一刻も早い解消が必要である。そして、決定プロセスを明らかにすることと併せて、急激な価格変動に対応できるシステムを早急に構築するよう求める。

 また歯科技工士や歯科衛生士不足の問題も、深刻な問題となってきている。歯科技工士の多くが、長時間・低収入といった過酷な労働環境のもとに置かれ、若い歯科技工士の離職、歯科技工士志望者の減少、養成校の閉校が相次ぐなどの事態が進んでいる。また、重症化予防やう蝕や歯周病の治療・管理等、その役割が重要視されるようになってきた歯科衛生士についても、人員確保が困難な状況が生じている。常勤雇用することができれば、患者さんとのコミュニケーションが円滑化され技能の蓄積にもつながるが、それには診療報酬の引き上げが不可欠なのである。

 今日、QOLの向上を目的とした、在宅・施設での高齢者への専門的口腔ケアによる口腔感染の制御、糖尿病や動脈硬化症、認知症等の全身疾患と歯科とのかかわり等、口腔管理を担う歯科への期待は高まり、その役割も重要視されてきている。しかし、基本的な技術評価である初・再診料は医科に比して低く抑えられ、算定上の取扱いの差異も解消されないまま今に至っている。

超高齢化社会の医療に対応し、「より良く食べるはより良く生きる」を実践していくためには、医科・歯科のさらなる連携が重要になる。口腔機能管理の果たす役割を重視し評価するよう、保団連、全国の保険医協会は、国会や関係省庁への要望を続けている。診療報酬における医科・歯科格差の実態と、歯科医療機関を取り巻く厳しい状況に目を向け、診療報酬を引き上げ、歯科医療費の総枠拡大で「保険でより良い歯科医療」が実現されるよう、全国の医師・歯科医師と力を合わせて声をあげていきたい。