持続可能な地域医療のために、開業医の働き方を見直そう

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厚生労働省は、今年、「外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン」を都道府県宛てに通知した。ガイドラインによると、厚生労働省の計算式によって算出された2次医療圏単位の外来医師偏在指数に基づき、県が外来医療計画を策定する。偏在の打開策として、医師が多数とされた地域での新規開業希望者に、地域で不足する外来医療機能(夜間・休日における初期救急医療や在宅医療、公衆衛生に係る医療の提供など)を担うことを求めるという。外来医師偏在指数の112位(医療圏単位・全国335)までを「外来医師多数区域」としており、広島県は7医療圏のうち5医療圏が「外来医師多数区域」である。機械的に弾き出された数字は実態に合っていると言えるのか、あくまでも医師を増やさず、開業に縛りを設けることやタスクシフトで補おうという対策に問題はないのか、疑問の声もあがっている。

ほとんどの医療圏が「外来医師多数区域」とされる当地だが、広島県内の無医地区は54地区で、北海道に次いで全国で2番目に多い(2014年10月)。都市部の周辺でも、病院の再編統合、常勤医不在による診療科の縮小などが起こっており、医師数は増加していても、診療科による需給不均衡や若い世代が減少しているという状況でもある。医療は地域を維持していくためのインフラでもあり、危機感を強める行政は、国立大学などと連携してへき地医療を担う医師の確保などに取り組んでいる。

超高齢化時代となり、医療費の増加を抑えようと、国は在宅医療を拡大させる方向に舵を切っている。しかし昼夜を問わず対応し、退院後から日常の療養支援、急変時の対応、看取りまで行うことを求めても、一人体制の開業医にできることには限界がある。期待して創設された在宅療養実績加算は、県内でも70診療所と1病院という届出実態である。

看護師、歯科技工士、介護職員と、医療や介護を担う職種で、次々と人員不足が起こっている。魅力にあふれ、やりがいのある職業であっても、働き方と報酬が伴わなくては敬遠される現代で、医師だけが例外になるとは考えにくい。医療費抑制策で診療報酬は低く置かれたままで消費税増税による「損税」負担は増加し、職員確保のための支出も増えるだろう。施設や機器に費用をかけて開業しても、病診連携や施設との連携が求められる地域医療は煩雑で複雑化する一方で、初期投資が取り戻せるのかにも不安がある。これでは医師を目指す者、開業を選択する者が減少していくことになりはしないか。

病床機能を縮小し在宅医療を推進し持続可能なものにしていくには、開業医の働き方にも目を向けられなくてはならない。月刊保団連2018年2月号に掲載された論考(斉藤みち子保団連副会長「開業医師・歯科医師の過酷な労働状況」)では、NHK国民生活時間調査の40代勤労者と同世代医師の生活時間を比較している。それを見ると、睡眠時間はNHK調査に比べ、医科約93%、歯科約98%、仕事関連時間は医科約124%、歯科約128%となっている。休息やリフレッシュのための生活時間が絶対的に不足しているのである。これらを十分に確保したうえで、研鑽や実績を積むことができることが必要だろう。また、地域枠を活用して勤務を義務づけるだけでなく、初期投資の負担を軽減しながら地域医療を確保する方法として、機器や機能を含めた公設に一定の経営裁量を持たせる民営の形を診療所に拡大していくことは有効ではないか。

豊かな生活を送りながら地域医療に貢献できる、開業医という仕事の魅力とやりがいを次世代に引き継がなくてはならない。