国庫負担割合の引き上げで持続可能な介護制度を~増税によらない財源確保を求める

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 団塊の世代が後期高齢者となる2025年を前に、介護保険の「負担と給付」の見直しが議論されている。社会保障審議会介護保険部会では、保険料と利用料の負担を見直す案として、被保険者とする範囲の拡大や所得区分別の保険料引き上げ、利用料負担の原則2割化、ケアプランの有料化、要介護1と2を介護保険から外し市町村事業化する案などが提示され、来年の通常国会に改正法案を提出する見込みとされる。「財源」と「担い手」という2つの不足を、「負担増」と「給付抑制」で凌ごうという政府案に、介護現場から厳しい声があがっている。

 9月26日の介護保険部会では、要介護1・2の市町村事業化の提案に対し、大西高松市長は、実施市町村の影響が甚大であると述べた。すでに総合事業に移っている(2015年法改正)要支援1・2の訪問介護と通所介護は、利用施設数や報酬の削減が指摘されるほか、自治体によっては担い手確保も重荷となっている。対象となる要介護者の多くが軽度認知症であることから、「軽度者とレッテルを貼ればサービスを減らせるかのような、私たちから見れば非常に粗雑な審議は避けるべき」との厳しい意見も聞かれた。

利用者負担1割の層が92%を占める介護保険で、原則2割化となれば、要介護1・2で月額3万円超、要介護3以上では月額4万円超の負担増と試算される。約6割が所得300万円未満という高齢者世帯(令和3年版高齢社会白書)が耐えられるのか。後期高齢者の医療費窓口負担2割化と同様に、負担能力の判断基準を引き下げる「応能負担の濫用」が行われようとしている。

 ケアマネジメントという介護保険利用の入口を有料化すれば、利用の見合わせやサービスを減らさざるを得ない事態が生じ、独居認知症高齢者が増加しているなかで死活問題に直結するという意見や、ケアマネの専門性が損なわれるとの意見が続いている。高齢者の自立を支援し適切なサービスを確保するケアマネジメントの重要性という観点から、全額保険給付としてきたものと矛盾するものでもある。

 一方、被保険者範囲の拡大によって財源確保を図る提案には、保険者や企業側から反対の声が出されている。2000年に2,000円程度だった第2号保険料は、6,829(見込額)円にまで引き上げられ、4割程度だった税・保険料負担は、健康保険料や雇用保険料の引き上げで給与の50%超となることが見込まれている。現役世代の負担能力に余力があるとは思えない。

 税金投入による保険料軽減や赤字補てんが原則として禁じられる介護保険は、サービス利用や利用者の増加が保険料にダイレクトに響くため、自治体は制度の充実と保険料とでジレンマを抱える。福祉制度として公費で賄っていた介護は、保険化によって公費割合が1/2となり、保険料を納めた人すら等しく給付を受けられない「名ばかり保険」になりつつある。介護保険創設時の厚労省局長すら、「団塊世代にとって介護保険は『国家的詐欺』となりつつあるように思えてならない」と語る。

 認知症の人と家族の会常任理事の花俣ふみ代委員は、「なぜ必要な人に必要なサービスを提供する議論ではなく、必要なサービスを減らす議論をしなければならないのか。なぜ必要なサービスを増やすためにどうやって財源や人材を確保すべきかという議論にならないのか」と疑問を呈した。もはや2つの不足を補い、持続可能な介護制度とするには、国庫負担割合の引き上げしかない。消費税増などさらなる国民負担を求めるのではなく、税の使い道や課税の仕組みの見直しで財源確保を図り、介護制度をはじめ社会保障予算への振り分けを増やすべきである。