子どもの口腔崩壊から見えてくること

pdfのダウンロードはこちら

厚生労働省の国民生活基礎調査(2016年)によると、相対的貧困状態にある17歳以下の子どもは13.9%であった。実に7人に1人が貧困世帯である。我が国の子どもの相対的貧困率はOECD加盟国34か国中10番目に高く、OECD平均を上回っている。また、子どもがいる現役世帯のうち大人が1人の世帯の相対的貧困率はOECD加盟国中最も高い(「平成30年版子供・若者白書」)。

広島県保険医協会は2017年に広島県内公立小学校476校、公立中学校237校を対象に学校歯科治療調査を実施した。小学校135校(28.4%)、中学校70校(29.5%)からの回答によれば、小学校で4割強、中学校では7割近くの児童・生徒が、必要な歯科受診をしていなかった。口腔崩壊児童がいたと回答があったのは、小学校で28.1%、中学校では20.0%であった。保険医協会が行った今回の調査では、「口腔崩壊」を、虫歯が10本以上、または歯の根しか残っていない未処置の歯が何本もある状態としている。

口腔崩壊の具体的な状態として、虫歯が12本あり治療の痕跡が無い、永久歯の虫歯が13本あり口臭がきついという回答もあった。永久歯の口腔崩壊は、好き嫌いが激しくなり食育が困難になるなど、子どもの成長に与える影響が大きい。さらに歯冠崩壊が著しくなると、口を隠して話すようになる。歯を見せて笑えない為、精神的な発育にも悪影響を及ぼしかねない。文部科学省が実施した学校保健統計調査(2017年)をみると、子どもの虫歯は一人あたり0.82本と減少に推移しているなか、口腔崩壊児童がいること、子どもの口腔状態の二極化が進行していることは深刻な問題である。

子どもの口腔崩壊の理由としては、子どもの健康管理への理解不足が最も多く、次に経済的困難、本人が受診を嫌がる、共働き、子どもへの関心が低い、一人親家庭などがあった。子どもに関心を持つ親が多いなか、経済的困難や、家庭で子どもに向き会う時間が無い、精神的な余裕が少ないケースで、子どもの健康に対する保護者の関心の低さや教育放棄(虐待に起因すること)を誘発し、口腔崩壊に繋がっていると考えられるのではないだろうか。治療費が無料でも受診に結びつかないという現状も一部にある。口腔崩壊児童の今後の動向を注視し、その原因となる口腔環境や背景にある成育環境を分析し、予防対策を講じることが重要である。

口腔崩壊児童へのフォローアップでは、検診回数を増やし、指導方法・相談などを工夫する。さらに、全ての子どもが無料で歯科受診が出来る制度づくりや予防歯科の充実、学校と歯科医が協力し歯科保健教育を向上させることなどもあげられる。また、経済的困窮家庭の増加に対する政策も重要である。口腔崩壊児童にはそれぞれ異なった家庭環境や背景があるので、学校、行政、家庭、歯科医療機関が連携し、個別のケースに対処できるよう柔軟さをもった枠組みをつくることが肝要であろう。

広島県保険医協会は、本年5月に、広島県教育委員会教育長との面談を実施した。このことを受けて、広島市教育委員会でも、広島市内の小・中学校で口腔崩壊の実態調査が実施される予定である。全県的な動きとなるよう継続して取り組まねばならない。

子どもの口腔崩壊は、貧困問題と大きく関わっている。医療や教育現場の努力とともに、貧困・格差社会の解消には、社会保障の充実が不可欠である。子どもの歯と健康格差の実態を十分に可視化する必要がある。口腔崩壊と貧困問題は自己責任ではなく、憲法に保障される基本的人権に由来する「健康に生きる権利」を社会が保障するものとして取り組まなければならない。