新型コロナウイルスワクチンへの慎重な対応を求める ~子どものワクチン接種の環境整備と冬季の備えに注力を

pdfのダウンロードはこちら

東京都は、9月3日、新型コロナウイルスに関する感染警戒レベルを、4段階中3段階目にあたる「感染の再拡大に警戒が必要であると思われる」に引き下げた。週平均の新規感染者数が、緊急事態宣言のときの最大値を下回ったことを理由としている。しかし、9月11日に発表された新たな感染者187人のうち、およそ49%にあたる91人は感染経路が分かっていない。国内では新たに、30都道府県と空港検疫で計644人の感染が判明しており、収束に向かっていると言える状況にはない。

当県では、この間、第2波に備える「検査体制の拡充」と「検査対象の拡大」を知事が表明し、唾液検査の普及と協力医療機関の増加が図られている。都道府県が主体的に感染防止対策を講じることは、住民の安全と地域経済を守るために重要なことであり、医療従事者と自治体行政の連携した取り組みに敬意を表する。しかし未だに、症状があったり感染者との接触の不安があったりしても、なかなか検査が受けられない地域があるという声も聞かれており、感染の拡がりにも、医療・検査体制にも地域差がある。国には、居住地による生命や健康の差が拡大しないよう、リーダーシップを発揮して支援や対策を講じてもらいたい。

このようななか、今回の感染症のワクチンに関する報道が続いている。各国政府は製薬会社と早くから接触、日本政府も国民全員分のワクチン確保を目標とし、主として海外の製薬会社から大量調達する方向で動いているようだ。8月末には、日本政府が、新型コロナウイルス感染症のワクチンで被害が出た場合の製薬会社の賠償責任を免除する方針を固めたと報道された。国の分科会で、2009年の新型インフルエンザ流行時と同様の対応を求める意見が出たことが背景にあるようだ。その数日後、今度は日本が基本合意した製薬会社のワクチン開発が、米国での臨床試験を中断していると報道された。英国での臨床試験で深刻な副作用が生じたため、その内容や安全性のデータを精査する、情報収集後、日本での臨床試験についても対応を検討することを伝えている。

世界で猛威を奮う感染症のワクチンの需要が極めて高いことは理解できる。強力な感染力を持つ新型ウイルスのワクチン開発は、経済界、医療界をはじめ、多くの住民の望みといえるだろう。しかし未知の部分が多い感染症であるがゆえに、ワクチンの有効性や安全性の検証には、どんなに優先的に取り組んだとしても一定以上の期間を要するとも考えられる。コロナウイルスの動物実験の過程で、抗体をつくったが治らなかったケースを指摘する免疫学の専門家もある。「延期」となった祭典が、日本政府の対応を「前のめり」にすることのないよう注視していきたい。

まもなくインフルエンザの季節となる。厚生労働省は、事務連絡を発出し、都道府県と基礎自治体の連携、地域の実情に応じた医療機関での相談・診療・検査体制の整備を通達している。しかし医療現場の実態と不安をどれだけ想像しているだろうか。感染への不安から受診抑制が拡がるなか、子どものワクチン接種率が減少している。NPOの調査によれば、小児用の肺炎球菌ワクチンやMR(麻疹・風疹)ワクチンの接種率が、新型コロナが流行しはじめた昨年12月以降に低下しているという。患者の不安を取り除かなくては、インフルエンザの予防接種が拡がらないまま流行期に入ることになりはしないか。

すでに実施されている予防接種を、安心して受けられる体制の整備、予防接種の重要性の周知など、医療機関と患者の不安解消に力を注いでもらいたい。