マイナンバーカードによるオンライン資格確認を警戒 ~医療現場にマイナンバーを持ち込むことの是非を考える~

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厚生労働省は、2021年3月の「オンライン資格確認」導入に向け、「医療機関等向けポータルサイト」を開設した。導入は義務ではないとされているものの、全医療機関に対し「オンライン資格確認導入に向けたご案内」が送付され、ポータルサイトでのアカウント登録を促している。

国は、2019年度予算で300億円を投じ「医療情報化支援基金」を創設。2020年度予算で768億円を積み増し、保険医療機関や薬局のシステム導入を補助。さらに、社会保険診療報酬支払基金が一括して機器を購入し、医療機関等に配付する方法も決定した。2023年3月には、ほぼすべての医療機関で、オンライン資格確認が実施可能となるよう体制整備をすすめていく予定のようだ。

医療機関がシステムを導入する場合は、ポータルサイトでアカウントを登録し、マイナンバーカードの顔認証付カードリーダーを申請し、オンライン資格確認等システムの利用申請と電子証明書の発行申請を行う。導入後に補助金の申請を行い、機器の費用や導入費が補填される。

 政府は、「医療機関・薬局の窓口で、直ちに資格確認が出来るようになります」と説明する。医療機関で健康保険証の資格確認を確実に行うことは、保険診療の基本である。しかし、被保険者が所持する保険証が有効か否かに責任を持つのは保険者であり、医療機関は事務手続きが正しく行われているかどうかを知る由もない。そういうことから、従来から行っている月初めの保険証確認を行っていれば、資格喪失による返戻に医療機関が応じる必要はない。しかし、オンラインで即時に判明するとなれば、資格確認の責任が医療機関に転嫁されていくことにはならないか。

オンライン資格確認には2通りの方法が示されている。1つは現在も使用している健康保険証の番号を入力する確認方法で、もう1つはマイナンバーカードを利用する方法である。マイナンバーカードは個人情報の塊であるため、医療機関が扱わないように配慮され、顔認証付カードリーダーを設置して患者自身が操作するような手順が示されている。しかし、マイナンバーカードが医療の現場に持ち込まれることで、医療機関はカードの紛失やマイナンバー流出などのリスクを負うことになる。目の前で困っている患者さんを助けたはずが責任を問われることになった、そのような事態は避けたい。利用方法の説明に手をとられないか、万一、その場で無資格者と判明した場合にトラブルにならないか。日常業務の混乱が想像される。

オンライン環境の整備の補助金は、マイナンバーカードのカードリーダー設置に付随されている(健康保険証でのオンライン資格確認には補助されない)。システム導入時に限定され、回線維持や機器の保全、セキュリティ確保など、将来に渡って必要な費用は医療機関の負担となる。どうやら本来の目的は、運用開始から4年を経て普及率が15%程度というマイナンバーカードの普及にあると言えそうだ。

マイナンバーカードで医療等の情報を一元的に管理できるようになれば、「社会保障個人会計」の基盤となり、社会保障に「負担に見合う給付」という制限と抑制の概念が持ち込まれる恐れが強まる。口座情報など、さらに広い情報を紐づけたビッグデータは、営利企業が喉から手が出るほどに欲している。マイナンバーに集約された情報がどういう領域で利用されるか、私たちがコントロールできるものではないだろう。

医療機関の不利益や患者の不安を払拭しないまま、マイナンバーカードによるオンライン資格確認の導入を急ぐべきでない。