脆弱な医療を立て直すためには、診療報酬の大幅な引き上げが不可欠

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新型コロナウイルスの感染者が国内で確認されてから2年超。今次診療報酬改定の基本方針をみると、「感染拡大によって地域医療の様々な課題が浮き彫り」になったという認識のもと、外来・入院・在宅での医療機能の分化・連携を重視しつつ、「経済・財政との調和を図りつつ」、質の高い効率的・効果的な医療提供体制・医療政策を実現するとされている。新型コロナで露呈した医療の脆弱性を補うには、診療報酬の大幅な引き上げが必要不可欠というのが現場の意見であったが、蓋を開けてみると診療報酬本体プラス0.43%、薬価等マイナス1.37%、全体でマイナス0.94%と、5回連続のマイナス改定であった。

新型コロナは感染収束の見通しが立たない状況にも関わらず、感染症対策実施加算や乳幼児感染予防策加算の廃止、PCR検査点数の引き下げ(一部緩和期間を設定)が行われた。これに替わるものとして外来感染対策向上加算が新設(医科)されたが、算定は発熱外来を設置する医療機関に限定され、感染防止対策部門を設置するなど厳しい施設基準、かなり低い点数設定となっている。歯科では感染防止対策を加味して初・再診料が引き上げられたが、歯周基本治療処置が基本診療料に包括されたため、実質マイナス改定である。コロナ特例で認めていたオンライン診療は、初診からに実質的な「解禁」となった。保団連中国ブロック協議会が行ったアンケートでは、オンライン診療の拡大に反対する意見が56.2%と、賛成の6.5%を大きく上回っていた。多くの医師が「対面診療」を基本とするよう求めているにも関わらず、感染症下でなし崩し的に拡大された。

また、マイナンバーカードを用いた資格確認についても、電子的保健医療情報活用加算を新設した。個人情報漏洩の不安や将来的な費用負担に二の足を踏む医療機関も多く、カードリーダーの運用を開始した施設は、医科・歯科・調剤併せてわずか10.9%に留まっている。メディアからもマイナンバーカード普及のための診療報酬改定と指摘され、患者負担増につながる内容は患者・国民の批判を受ける事態となっている。マイナンバーカードの普及が進まない責任を医療現場に押し付けるようなやり方をとるべきではない。

「金パラ」の逆ザヤ問題では、歯科用貴金属価格の随時改定が見直されたものの、素材価格の参照期間がわずかに1か月短縮されるに止まり、医療機関の購入価格を補てんするような抜本的な解決策はとられていない。この間の世界情勢は、参照期間の短縮では補えない逆ザヤを生じさせており、医療機関の負担は甚大なものとなっている。適正に保険償還される仕組みを早期につくることとあわせて、メタルフリー材料の開発と活用が急がれなくてはならない。

新自由主義政策に基づく「効率的」という言葉が繰り返される診療報酬改定の基本方針だが、その内実は、リフィル処方の導入や湿布の処方枚数の制限など、必要とされてきた医療の制限と包括化の拡大である。細かい要件を課し、加算・減算が判定される仕組みを導入・拡大され、医療機関は患者を診るよりも事務と届出に追われ、負担感ばかりが増すような改定である。その一方で、マイナンバーカード推進策が診療報酬での評価対象となり、「経済との調和」が重視される。診療報酬の役割は、医療水準の向上と、安心・安全な地域医療の提供体制を維持することにあるはずだ。本来の役割に重心を戻し医療現場の実態に即した診療報酬とするよう、引き続き、会員の要求の集約と改善の取り組みを行っていく。