国によるこども医療費窓口無料制度の創設を急げ

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 円安の煽りを受け、物価高騰が子育て世帯に甚大な影響を与えている。小麦や油脂などの原材料価格の高騰により、10月に値上げが見込まれる食料品は6500品目、2人以上の世帯で年間平均6万8千円の負担増という試算もある。そうしたなか、「2021年国民生活基礎調査の概況」をみると、児童のいる世帯の平均的な給与所得は695万円程度。8月の毎月勤労統計調査では、実質賃金は、前年同月比1.7%減少。4月以降、5か月連続でマイナスの伸び率となっている。

 内閣府が2021年2月~3月に行った「子供の生活状況調査」(中学2年世帯対象)をみると、等価世帯収入が中央値未満の世帯が約半数を占める。今の暮らしが「苦しい」「大変苦しい」と回答した割合は、全体では25.3%だが、中央値の1/2未満の世帯でみると57.1%、世帯収入の水準が低い世帯やひとり親世帯では、「食料が買えなかった経験」や「衣服が買えなかった経験」、「公共料金の未払い」が生じている割合が高い。また新型コロナの影響による世帯収入の変化も、もとより収入の少ない世帯で減少していることがわかった。国民生活基礎調査をみても、児童のいる世帯の半数以上が、生活が「やや苦しい」「大変苦しい」と答える傾向が続いている。

 10月3日、保団連も参加する子ども医療全国ネットの国会内集会が開催され、医療団体が大学と共同で行った調査について報告された。調査対象を小・中学生を育てる世帯とし、国民生活基礎調査の貧困ラインをもとに「貧困群」と「非貧困群」とに区分、2019年と2021年を比較している。それをみると貧困群の家庭で受診控えが著しく増加、受診控えの理由に「自己負担金の支払い困難」をあげた数が、非貧困群に比べ5倍以上であった。報告した病院小児科の医師は、子どもの権利条約や憲法第25条(健康で文化的な最低限度の生活を保障)が損なわれつつあると語った。

 さらに、日本の出生数は1991年以降減少傾向が続き、2020年には84万835人となった。子どもの数が理想を下回る夫婦の多くが「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」(56.3%「少子化社会対策白書令和4年版」)を理由にあげ、30代前半では8割を超える。合計特殊出生率が2.95という岡山県奈義町は、みんなで子どもを大切にしようという空気と、「不安を解消する」手厚い制度を備える。奈義町では高校生までの医療費が無料、9年連続の人口増を誇る明石市も高3までを無料とし、所得制限は設けていない。

 一方、国の子育て支援に対する姿勢はどうか。収入に基準を設け、児童手当の特例給付を廃止(2022年10月実施)。「産み控え」対策に、2歳以下の子どもがいる家庭にクーポン支給の方針を打ち出す。さらに現物給付方式で医療費補助を実施する自治体に国庫負担減額というペナルティを科している。2018年度から、未就学児の部分についての減額調整を見直したものの、その際、見直した財源を医療費拡充に充てるなとまで通知している。実用性に欠け、一貫性もない子育て支援に効果があるとは考えにくい。

 2019年12月、子どもや保護者、妊産婦に、切れ目のない成育医療等を提供するとした「成育基本法」が施行された。2023年には「内閣府の外局」としてこども家庭庁が置かれることが決まっている。貧困対策や少子化対策を重要課題と位置付けるならば、居住する自治体で医療費の窓口負担に差がある現状は、国による制度創設で解消すべきである。子どもと子育て世帯を取り巻く情勢は厳しさを増す。国の制度として18歳年度末までを対象とする医療費窓口無料制度の創設を急ぐべきである。

※「等価世帯収入」…世帯の収入を「世帯人員の平方根」で割ったもの。