武力増強一辺倒ではない安全保障政策への転換を求める~食料自給を高め、持続可能な社会へ
5月に広島で、主要7か国首脳会議(G7広島サミット)が開催された。G7広島サミットでは、ウクライナに「核の威嚇」を続けるロシアを非難し、核戦力を増強する中国への懸念を示す「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン(広島ビジョン)」がまとめられた。安全保障政策では、「核兵器は、それが存在する限りにおいて、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、並びに戦争及び威圧を防止すべきとの理解に基づいている」と、核抑止論を正当化し、核兵器禁止条約はもちろん、2000年5月のNPT(核不拡散条約)運用検討会議最終文書にある「核戦力の透明性の向上」や「あらゆる種類の核兵器のさらなる削減・将来的な核兵器削減交渉の多国間化」などに触れない内容となった。自国の核兵器には目をつぶり、対立国の核兵器だけを非難するG7の態度は、ウクライナ大統領をサミットに招き全面的な支援を表明した「ウクライナに関するG7首脳声明」とあわせて世界に発信された。G7がロシアに対する新たな軍事ブロックの存在を強調するものとなり、そこに日本が加わっていくことが、両国、延いては世界の平和につながるといえるのか。広島でのサミットが、核兵器廃絶に背を向け、両国の亀裂を深めるものとなったことへの、被爆者の落胆は大きい。
政府は、2022年12月に閣議決定した安保3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)を軸に、2023年度から5年間で防衛費を43兆円に増額するとし、そのための財源確保法を6月の国会で成立させた。2010年の「防衛大綱」から、沖縄の南西諸島における自衛隊の整備が進められ、与那国島、奄美大島、宮古島、石垣島など次々に基地の整備が具体化されてきている。「12式地対艦誘導弾」などのミサイルを備え、今後は「敵基地攻撃能力」として長射程ミサイルが配備されようとしている。
G7では食料安全保障についても議論され、招待国・地域と共同で取りまとめた声明では、世界の食料安全保障が危機に晒されている、ロシア・ウクライナ問題が開発途上国や後発開発途上国の状況を悪化させていると指摘する。日本国内に目を向けると、食料自給率(カロリーベース)は、1965年の73%から2021年には38%と半減している。農業従事者数は、2015年197.7万人から2020年の152.0万人と、5年間で45.7万人減となっている。中央酪農会議が2023年に実施した実態調査によれば、85%の酪農家が赤字経営、うち4割以上が月100万円以上の赤字を抱えるという。食料自給の足元は、農産物の輸入自由化や新型コロナ、飼料価格高騰などで深刻な打撃を受け、さらに厳しい状況に落ち込むであろうことは容易に想像できる。
ひとたび紛争や戦争となれば、輸入に依存するわが国の食料供給は崩壊する。サミットの「強靭なグローバル食料安全保障に関する広島行動声明」は、持続可能な農業と食料システムを構築するために、国内農業資源を公正かつ適切に利用し、持続可能な地方の生産性および生産の潜在力を活用すると指摘している。日本の食料自給の現状をふまえれば、それを支える産業分野をどう維持するかを抜きにした安保3文書に説得力はなく、外交と対話をもとにした安全保障の道を選択するしかないとも考える。
人命を守る医師・歯科医師として、いかなる戦争をも容認しないと宣言する広島県保険医協会は、武力増強一辺倒ではなく、食料自給から安全保障政策を考えることを提案する。