衆議院議員選挙は生活と命に関わる貴重な評価の機会。多くの選挙民の参加を切望する~科学と学問を尊重する感染症対策への転換を
オリンピック閉会とともに、新型コロナの深刻な感染状況が報道され始めた。東京都では、「濃厚接触者」判定を諦め、同居家族と施設に限定したPCR検査に切り替わったという。感染者・重症患者の入院先が確保できない事案が増加し、保健所機能を補うために、地域の開業医療機関にも業務協力が求められている。広島県内でも7月下旬から感染者が増加し、病床使用率も上昇している。
オリンピック前、国会で答弁に立った首相は、「緊急事態宣言が解除できるように全力をあげる。そのことが最優先」と発言した。別な場では「国民の命と健康を守っていく。これが開催の前提」と述べた。しかし、具体的な方策や中止の判断ラインなどの説明がないままの開会を迎えた。患者が急増する7月30日の記者会見で、「国民の命と健康は守れていると考えるか」と問われた首相は、「人流は減っている」「テレビ観戦を要請する」と答えていたが、感染者数が1万人を超えた危機感はなかった。
外部との接触を遮断するバブル方式で開催されたオリンピックだが、空港での陽性判定後、濃厚接触者を判定しないまま事前合宿地に移動したことが報道されると、そこから次々にバブルの穴が露呈していった。オリンピックの医療は別枠と言いながら、7000人もの医療者、療養のための施設、検査体制など、国民のための医療リソースがオリンピックに費やされ、外国メディアで、新たな変異種「ラムダ株」の国内検出が、オリンピック閉会までプレスリリースから除外されていたということも報道されている。そして現在、救急患者の搬送先が決まらない「救急搬送困難事案」が、全国で2897件/週と発表(8月11日)され、入院を待つ感染者は1万3千人超。27大学病院では集中治療室での患者受け入れを制限する事態となり、新型コロナ以外の患者への影響も拡がっている。
このようななか、政府は、中等症患者は自宅療養を原則とする方針を打ち出した。国会(閉会中審議)では、分科会の専門家の意見は聞かず、入院の判断基準も「これから検討する」ことが明らかとなった。療養施設の受入れ確保のためというが、厚労省は、肺炎症状のある患者が入院できているのか把握しておらず、自宅療養中の死亡者数の数字も持たなかった(警察庁調べでは、2020年2月~7月で変死などの遺体のうち567人の死因が新型コロナ感染と把握されている)。
感染力が強く若年層にも脅威となるデルタ株が、外国で猛威を奮い、日本でも「置き換わり」が進んでいることは6月にわかっていた。緊急事態宣言を延長しながらも、補償のない「自粛」を繰り返すだけで、海外から人を集めるオリンピック開催に突き進む政府の言葉に説得力があるはずもない。PCR検査抑制を強いてきた方針は瓦解したが、検査拡充は都道府県・自治体任せのままで進歩もない。
科学・医療の知見を無視して、必要な医療の基準を変えることはあってはならない。半年前に「入院拒否に刑事罰」と閣議決定までした政府が、自らの無策が招いた現状を追認するために、医療アクセスを保障してきた国民皆保険制度を投げ出すことを許してはならない。例え医療提供が困難な事態となっても、全力で充足に取り組むのが政府の役割である。
受診が滞り悪化する症状、救える命すら危うい医療の現状、医業経営も国民生活も限界に近づいている。科学や学問を軽視し、国会議論からも逃げ、自らを正当化するためには隠蔽や改ざんも厭わない政府の、楽観的で場当たりな感染症対策をどこまで許容するのか。衆議院議員選挙は、生活と命に関わる貴重な評価の機会と捉え、多くの選挙民が参加することを切望する。