自治体行政の強化と地域医療の維持に思い切った財政支出を ―災害と感染症の同時発生に対応するために―

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梅雨前線の停滞は緩急の長雨となり、またも浸水や土砂崩れの災害が発生した。7月15日現在、全国25県で死者77名を含む106名の被害と、約15,000棟の住宅被害となり、当県でも土砂崩れで命を落とされた方があった。テレビの報道は、2018年の大規模な土砂災害被害を追悼するニュースと、まさに今、発生している被害とで混乱しているかのようだった。

一方、新型コロナウイルス感染症は、同じ頃より東京で感染確認者100名超が続き、「東京アラート」を解除し休業要請などの規制を緩和した6月11日以降の陽性者は約3000人となっている。厚労省の専門家会議は、全国的に新規感染者数は増加傾向にあるとした。誰もが不安に思っていた「コロナ禍」での災害が発生したのである。

感染症の感染拡大を防ぐことと、災害対策と復興は、今の日本にとって、最も重要視しなくてはならない課題と言える。環境省の資料によると、1900年以降に発生した世界の主な自然災害(台風、洪水、地震、津波)のうち、約15%が日本で起きている。2つの大きな震災以降も、豪雨や地震、火山噴火などの大規模災害が頻発し、経済や産業活動に痛手を負わせ、住民の生活に打撃を与え続けている。

災害対策基本法をみると、「国は、国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護する使命を有する」「組織及び機能のすべてをあげて防災に関し万全の措置を講ずる責務を有する」(第3条)とある。また、都道府県や市町村は防災計画を定め、その実施の責任を負う(第4・5条)。災害から国土や住民の生命、生活を守ることに責任を負う国や自治体は、災害で被災した住民や地域産業の復興にも「すべてをあげて」取り組むことになる。

「コロナ禍」で次々に設けられる補助や融資の支援策、医療体制の整備、そのほとんどが自治体を窓口とする。災害時に住民の手足となり復興を支援するのも基礎自治体の役割である。そこでは職員の非正規化が拡がり、都道府県と市区町村など合わせて、10年余りの間に4割も非正規職員の割合が増えている。給与が低く不安定な雇用にある非正規公務員が多数となった自治体で、世界規模の感染症対応や、続く大規模災害の対応を背負うことには無理があるのではないか。

今回の災害発生後にテレビ出演した武田防災担当大臣は、「『コロナ禍』で気を抜けない状況の中で、ボランティアの出足が非常に悪く、絶対的なマンパワーが足りない」「新型コロナウイルス対策をしながら、多くの方々の手を借りるシステムをどう作り上げるかが大きなテーマだ」と述べたという。防災に対する国の責任とはボランティアを集めることなのか。そもそも自発的な行為であるボランティアに、広範囲な災害支援を依拠することが適当なのか。

「コロナ禍」においては、公的な仕組みの中で自ら感染リスクをかかえながら社会の安全確保のため保険診療を実施し、非営利で公共的、公益的な役割を担う医療機関に支援策がなかなか講じられない。現場にすべてを負わせ公的責任に背を向ける国の姿勢は共通している。

2011年当時、保険医協会らは「自助」「共助」を前提とした社会保障へ転換を図ろうとする「社会保障と税の一体改革」に反対の声を挙げた。10年を経て、「公助」は災害対策も感染症対策にも責任を負わない(負えない)ほどに縮小されてしまったのか。テロや侵略から国を守ることだけが「安全保障」なのか。災害に対応できる国土の整備、国民の生活を守る、それによって経済を立て直すということも重要な「安全保障」ではないか。非常事態の今こそ、自治体行政の強化へ転換し、災害支援や医療体制整備・地域医療の維持に思い切った財政配分を行うべきである。