医療機関の実情を把握し効果的な対策を~新型コロナウイルス感染症対策~

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昨年11月8日、中国の武漢で発生した新型の感染症は、中国国内に波及、3月26日時点で、感染者41万人、死亡1万8千人、日本では感染者1,291人、死亡者45人(厚労省発表)を超える規模となっている。

クルーズ船で患者が発生し、検疫等を行うため約1ヶ月に渡り横浜港沖合いに停泊、災害時の急性期医療を専門とするDMAT(災害派遣医療チーム)が派遣された。船内の構造や環境整備上の問題、多国籍の乗客との意思疎通の障害などもあり、大規模な感染となった。武漢から、日本政府のチャーター機で邦人らが帰国。ホテルや国の施設で経過観察期間(12.5日)を過ごしたが、ホテルで相部屋となった帰国者のうち2人が感染していた。日本政府が感染症対策の専門家による対策会議を開催したのは、発生から1ヶ月経った2月16日。対応の遅れを指摘する意見や初期対応の不備が国内に感染を拡げたとの意見が多くあがっている。

1月末の時点でPCR検査対象は、中国からの帰還者の他は範囲が限定され、現場の医療機関や国民の不安を助長させた。検査で陽性となった者は感染症指定医療機関に入院するが、患者の増加が続き、2月13日時点で第一種感染症指定医療機関及び第二種感染症指定医療機関について、感染症病床以外の病床確保が求められている。

1994年、保健所法が改定され、地域保健法となった。その際、都道府県の保健所は医療法の「二次医療圏」などを参考に所管区域を設定することとされ、管轄区域が広域化された。1993年に848施設あった保健所は、2019年472と半数近くに削減され、職員の非常勤化も拡がっているという。国公立の研究機関についても、予算の削減や独立法人化で効率的な運営が重視されるようになった。国立感染研究所の予算は、2008年度から2018年度の10年間で約20億円も削減されている。米国のCDC(疾病対策予防センター)には、微生物学、感染症学、疫学や公衆衛生学など幅広い領域の専門家がおり、疾病の予防と管理だけでなく、環境衛生、健康増進や教育活動などで中心的役割を果たしている。日本においても、医師を中心とした感染症対策の専門的な組織を確立することや、十分な予算を確保したうえで人員増を図り、感染症等の研究に専念できる体制をつくることが必要である。

 2月25日、政府は「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を発表、イベントなどの開催を検討するよう求めた。27日には学校の休校を求めたが、専門家や政府関係者の意見を聞かず独断で唐突な安倍首相の要求に、現場に大きな混乱がもたらされた。保護者が働きに出られなくなったため人員確保が困難になり、診療体制を縮小せざるを得ない医療機関もあった。

 世界規模の感染症が拡大しつつある今、政府が着手している公立・公的医療機関の統廃合は停止し、病院や有床・無床診療所の体制縮小につながる政策は見直されなくてはならない。急性期病床への施設基準の強化等、感染症拡大時に医療供給の維持を妨げるような診療報酬改定は撤回するよう求める。また公的医療機関に感染・発熱外来の設置を義務付け、慢性疾患の患者と区別できる診療体制を整備する。入院施設においても、慢性疾患患者と区分した感染病棟を整備する。民間病院に整備を求める場合に予算措置を講じることも重要である。

ベトナムのSARS対抗策に学び、ゾーニングと換気を原則とした医療体制を、早期に構築しなくてはならない。日本の医療政策においては、アウトブレイクに対応できるだけの人員を、医療機関が常時確保しておけるよう、その人員確保を念頭に置いた診療報酬の設定を望む。