要介護認定者の「総合事業」移行は介護保険給付の抑制政策。持続可能な制度への見直しを急げ

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10月26日、「介護保険法施行規則の一部を改正する省令の公布について(通知)」により、市町村が行う「介護予防・日常生活支援総合事業」に要介護者を加えることとなった。地域とのつながりを継続することを可能とする観点から、介護保険の給付が受けられることを前提としつつ、弾力化を行うというのが改正の理由とされている。新首相就任から1か月、わずかな期間の意見公募のみで省令「改正」が行われた。

2015年の介護保険法「改正」によって創設され、2017年4月より全国実施となった「介護予防・日常生活支援総合事業」は、65歳以上のすべての高齢者と介護保険の要支援認定者を対象とし、訪問介護と通所介護と市区町村が実施していた介護予防事業が合体して編成し直された事業である。各市区町村が主体となり、サービスの運営基準や単価、利用料なども市区町村が独自に設定することができるなど、市区町村の裁量が拡げられた。介護保険制度の財源から「総合事業」に支給される介護給付の総額には上限が定められ、それを超えた場合は、保険者である自治体が全額負担することとなる。介護保険財源の逼迫に対応するため、住民間の「共助」とボランティア活用の促進、報酬の引き下げが組み込まれた「総合事業」は、非介護認定者も対象とする事業に介護保険料財源が充てられるという、保険制度としての矛盾も内包する。

 「総合事業」では、報酬単価が低いため事業者の撤退が相次いでいる。老人福祉・介護事業でも倒産が増加し、2019年上半期の倒産件数は、前年同期比22.2ポイント増、2年連続で前年同期を上回り、介護保険法が施行された2000年以降では最多となっている。低い賃金や労働内容から担い手不足は慢性化し、通所サービス、訪問サービスともに、要件が緩和されるA型や住民ボランティアなどによるB型のサービス利用は伸びていない。国が描いた「共助」による包括的なサービス提供は進んでいないようだ。

 2000年に創設された介護保険制度は、医療と介護を切り離し、営利法人の参入と受益者負担を持ち込み、国庫負担の抑制ありきで改定を重ねてきた。2001年に通所介護事業者数に占める社会福祉法人の割合は約75%だったが、2018年には37%となり、営利法人の割合が51%となった。訪問介護では、社会福祉法人は2013年の42%から2018年には16.8%へ、営利法人は34%から67.6%に増加している。公共性と非営利性をもつ社会福祉法人は立ち行かず、「介護の社会化」は「介護の市場化」だったというほかない。市場の競争原理を優先するために国庫負担は抑制的にならざるを得ず、不足する財源は利用者負担や保険料負担に転嫁される。利潤を生み出すことを目的とする営利法人は、人件費を含めたコスト削減を強化し、事業展開が難しい地域では介護サービス整備も遅れがちとなる。入院外の「維持期」リハビリテーションが介護保険対応とされたように、医療から介護への移行も拡大されつつある。

 超高齢社会はさらにすすみ、2060年には高齢化率39.9%と推計されている。介護保険料の上昇は続き、高齢者の保険料滞納は過去最高となった。非正規雇用を拡げた社会では低所得の高齢者が増えることも予想される。その場しのぎのサービス切り捨てを繰り返していては、利用者も現場ももたない。「公助」を縮小し、互助という「共助」、「自助」を優先する路線のうえに立つ介護保険は、抜本的な見直しが必要である。どこに住んでいても安心して受けられる介護、持続可能な制度を構築するためには、財政と実施責任の「公助」を拡大するよう見直しを急ぐべきである。